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Archive: 2015年05月  1/4

終(つい)の花 31

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話は戻る。松平容保と共に、京都へ入った会津人の実直な仕事ぶりは目覚ましかった。帝の覚えも良く、狼藉を働く不逞浪士にうんざりしていた京の人々は、颯爽と取り締まる会津兵の働きを喜んだ。尊王攘夷を謳う浪士の狼藉は、無意味に天誅を叫び人殺しをするばかりか、商家に押し入り金銭を強要することもあった。抗えば家人が酷い目に遭った。金を出さなければ、嫁入り前の娘や若い妻が強奪されることもあった。泣きつかれた無能な...

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終(つい)の花 32

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不逞浪士の跳梁する京の町で、会津藩の力を広く知らしめるため、会津藩は帝に請われるまま二度の天覧馬揃えを供している。揃いの装束をまとった勇ましい騎馬隊、鉄砲隊に号令するのは、拝領した緋衣を美々しい陣羽織に仕立て采配する輝くばかりの容保。直正も精鋭部隊の一員として、鉄砲隊を率い馬上にいた。誰もが、至誠を胸に意気軒昂だった。一糸乱れぬ鍛え抜かれた会津の精鋭たちの武者ぶりに、帝だけではなく御簾の向こうから...

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終(つい)の花 33

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帝は何度も容保を参内させ、誰よりも心中をわかってくれた優しい青年に厚い信頼を寄せた。深夜、人目を忍んで信用できる傍仕えの公家を呼び、心の内を吐露したご宸翰(手紙)を届けさせている。密かに本心を打ち明けねばならぬほど、帝は心中ままならぬ思いを抱えていた。しかし、帝が容保を頼みにするのは、長州藩とつながった近習にとっては、面白くなかった。自分の意思を持ち始めた帝が思い通りに動く傀儡ではなくなったとき、...

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終(つい)の花 34

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直正はお傍近くに仕える田中と話をしている。「やったな、直正。」「はい。此度の件で、殿の名声が広く天下にとどろきました。長州の傍若無人ぶりを思えば、胸のすく思いがいたします。大砲を向けられた時には、生きた心地がいたしませんでしたが殿にもお怪我もなく何よりでした。」「はは……直正は以前に殿はいささかお優しいゆえ、長州などに舐められるのだとか申して居ったな?今もその気持ちは変わらぬか?」「これは……覚えてお...

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終(つい)の花 35

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「お。相馬殿。どこへ行かれる?」「国許へ文を送りに参ります。」「なんだ、いつもの飛脚屋か。浮かれた足取りゆえ、てっきり女子にでも会いに行くかと思ったぞ。」「はは。朴念仁ゆえ、そのような話はありません。」「つまらぬ堅物じゃ。島原の女もなかなかいいぞ。そのうち遊女屋に連れて行ってやろう。」「はは……そちらの方は、いずれまた。では、これにて。」直正は暇を見つけては、日々の暮らしを知らせる文を一衛に送ってい...

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終(つい)の花 36

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友人たちは慌てた。「え?何だ?どうしたんだ。」「なんで泣くんだ、一衛?直さまはお元気で御活躍だったんだろう?」「一衛?」「泣くようなことは、どこにもなかったじゃないか。」同輩が心配して、顔を覗き込む。「ばか。一衛は直正さまが大好きなのだ。会いたいのを我慢しているのに、皆が余計な事を言うから思い出してしまったんだろう。」「だいじょうぶだ、一衛。相馬殿は一衛の事を一番に考えていてくれるさ。これまでだっ...

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終(つい)の花 37

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本来ならば一丸となって幕府を支えるはずの諸藩は、まるで重箱の隅をつつくように、施政の綻びをつつく。尊王攘夷のできもしない約束を、違えたと言って若い将軍家茂を追い詰めてゆく。どちらに付けば得か、どの藩も曖昧な態度で決断を避け、ひたすら保身に走るばかりであった。孝明天皇の妹、皇女和宮が降嫁した徳川家茂という心優しい貴公子が、病を得て大阪城で崩御すると、思いつくままにその場しのぎの策で世渡りをする徳川慶...

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終(つい)の花 38

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居並ぶ藩士の中に、小さなざわめきが広がった。年功序列を大切にしている会津では、若輩者の直正の意見が通ることは、普通では考えられない。その為、会津藩の軍制改革は他藩よりもかなり遅れていて、いまだ長沼流が主流を占めている有様だった。重臣達の頭は固く、口々に長州を討つといっても、現実にはこれと言った手はない。戦をするには装備が整っていないことを、会津の古い中枢はまだ知らないでいる。直正はまだ若いが、広く...

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終(つい)の花 39

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会津の重臣たちは、渋面を揃えて容保の前にいた。叩けるときに長州藩を叩くべしと言う会津藩の進言を一度は納得しておきながら、徳川慶喜はあっさりと反故にしたと容保から報告を受けた。「信じられぬ。一体、徳川慶喜公は会津を何だと思っているのだ。殿を御引き留めになる帝のお気持ちを考えると、率先して自ら出陣すべきではないのか。長州を相手に臆病風に吹かれたとしか思えぬ。」「あちらへふらふら、こちらへふらふら。徳川...

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終(つい)の花 40

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御殿医の見立てで、帝がそれほど重篤な状態ではないと知り、容保は安堵した。しばらく別室に控えていたが、その場から立ち去ろうとはしなかった。看病している女御が、帝の言葉を伝えた。「主上が御身を御心配あそばしまして、肥後守はもう屋敷に帰ったかとお尋ねでござります。どう奏上いたしましょうか?」「御容態は落ち着いておられますか?」「はい。御典医さまが膿を出すお薬を差し上げました。お粥も少し、お召し上がりにな...

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