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Archive: 2013年11月  1/3

嘘つきな唇 2

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二人の在籍する高校は、県下でもいわゆる進学校として名を知られた、偏差値の高い公立高校だった。弱小野球部に籍を置くのは、部員にとって、大学進学のための内申点を良くするつもりもあったかもしれない。当初、里流も周囲にそう思われていただろうと思う。何しろ野球部に入部当時、里流は今よりももっと線が細く、持病のせいで全員が揃ってこなす5キロのロード練習さえまともに完走できなかった。余りの体力不足に、数少ない上...

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嘘つきな唇 3

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潮時……という言葉を、里流の母親も口にし心配していた。母一人、子一人の家庭だった。「あんたはスポーツ万能のお父さんとは違うのよ。喘息持ちで身体弱いんだから、もう野球なんてやめたらどうなの?夏の試合が終わったら、少し考えなさい。」「わかってるよ。」「そうやってはぐらかしてばかりなんだから。野球でご飯食べられるわけじゃないんだから、お母さんはそろそろ勉強だけに専念したほうが良いと思うけど?運動も勉強も何...

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嘘つきな唇 4

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里流は彩の作ったメニューどうり、毎朝の走り込みから始めた。自宅から学校まで、4キロ余りの道のりを最初は半分歩くようにして走っていたが、やがて次第に走れる距離とタイムが伸びた。数か月経ったころ、いつか自然に、俺も一緒に走ると言い出した彩がジャージ姿で玄関に迎えに来た。「先を走るから、背中を追って来いよ。目標が有った方が走りやすいだろ?」彩は里流に合わせ、ゆっくりと先を走り始めた。*****遠かった背...

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嘘つきな唇 5

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彩は自転車置き場まで追って来た里流の言葉に、少し驚いていた。面倒を見て来た後輩が、最後に自分の事を好きでしたと打ち明けた。どこまでも生真面目な必死の瞳に、彩もはぐらかさずにきちんと答えた。「里流。俺は自分がしたいことをやっただけだ。忘れるなよ、頑張ったのは里流自身なんだからな。里流は自分の力で、ここまで来たんだ。」「はい。」「里流が頑張ったから、他の奴も続いたんだ。練習試合も組めなかったチームが、...

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嘘つきな唇 6

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幸せな余韻に浸りながら、頬を染めた里流がゆっくりと部室に戻ってゆく。その時、自転車置き場の影から、火を噴く嫉妬の視線で背中を見つめる少年がいたのに、里流(さとる)は気付かなかった。そこにいたのは、彩の遠縁でもある陸上部の織田朔良(おださくら)だった。体育館裏の陸上部の部室に行くには、自転車置き場の脇を通らなければならない。二人の交わす言葉を聞き、その場に立ちつくした織田朔良にとって、彩(ひかる)は...

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嘘つきな唇 7

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朔良は運が悪かった。どんな高校にもはみ出し者は存在する。程度にもよるだろうが、公立の進学校も例外ではなかった。彩の後を追って同じ学校に入学した朔良は、中学から始めたハイジャンプを続けようと陸上部を選んだが、そこで島本と粗暴な友人たちに出会ってしまった。彼らが籍を置く陸上部は活動実績がほとんどない部で、部室が溜り場と化していたのを朔良は知らなかった。朔良に一緒に校内を回る友人がいなかったのも影響した...

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嘘つきな唇 8

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数日たって、意を決した朔良は島本だけに声を掛けた。「……話があるんだけど。」「なんだ?」島本がグループのリーダー格と知った朔良は、考えた末に交換条件を出した。「あんたが一応部長なんだろ?陸上部としての体裁を整えてよ。陸連に参加するには、顧問も必要だし色々やることあるんだ。ぼくはハイジャンプの練習もしたいし、新人戦にも出たいんだ。」「なんだよ、何を言いだすかと思ったら。……めんどくせぇなぁ。真面目に部活...

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嘘つきな唇 9

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里流はいつも通り玄関を開けて、待っている彩に声を掛けた。「彩さん!おはようございます!」「おはよう、里流。」一つ微笑みを寄越すと行くぞと手を上げて、彩は先に走り出した。後を追う里流には昨日と同じ景色のはずだが、色鮮やかに見えた。頬を弄る空気さえ澄んでいる気がする。振り返って思えば、最後の朝。何も知らない里流の足取りは軽かった。*****「里流!」友人たちとの昼食が終わったころ、彩が誘いにやって来る...

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嘘つきな唇 10

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何度めかのキスの後、彩はぽんと頭を撫ぜた。「駄目だ。これ以上里流の顔を見て居たら、キスだけじゃ物足りなくなる。やばい。」いくらなんでも部室で押し倒したらまずいと、彩はごちた。原案を作って来ると口の中で呟いて、部室を出て行こうとした。思いついて里流は彩の背中に声を掛けた。「あ!彩さん~。」「なんだ?」「そう言えば、これまでの新歓の時っておれ参加できてないんですけど、野球部は何をやったんですか?」「新...

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嘘つきな唇 11

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大通りに向かう救急車両とパトカーのサイレンが、けたたましく鳴り響いていた。思わず沢口と顔を見かわした。「近いな、里流。行ってみるか?」「そうだな。何か手伝うことが有るかもしれない。」彼等は駆け出した。そしてトラックの下部から引き出された、ありえない曲がり方をした自転車に、自分たちの高校のステッカーを見つけた。アスファルトには、漏れたオイルで黒い染みが出来ていた。細長いタイヤの跡が、細長く蛇行して焼...

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