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Archive: 2012年06月  1/4

露草の記・参(草陰の露)【作品概要】

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命がけで主人を守った「草」に報いるため、双馬藩は大枚をはたき、徳川から忍びの命を買う事にした。陽忍「露草」が心から求めるものは、命に代えて守った唯一無二の主君だけだった。求めても決して報われることのない思いは、切ない。いつか傍らに添う、あどけない嫁御寮と主君の命を業病から救い、役目を終えた儚き草が選んだ道は……。「露草の記」最終章です。五分後、連載開始ますので、どうぞよろしくお願いします。此花咲耶...

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露草の記・参(草陰の露)1

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あれから季節は移り、於義丸が床から眺める桜は散華し、既に葉桜になっている。喉に重傷を受け長く声を失っていた於義丸は、ようようほんの小さな囁くような声を、発することができるようになっていた。「気分は、どうじゃ?おギギ。」日々何度も、秀幸が見舞いと称して、部屋を覗きにやって来る。膝をつき、そっと布団を引き上げてやった。その声掛けもいつも同じで、於義丸はふっと笑顔を向けた。自分に向ける秀幸の不器用な優し...

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露草の記・参(草陰の露)2

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藩主が買って参れと義弟に命じた於義丸と言う少年は、実は伊賀の里出身の「忍」である。幼い時に、天正伊賀の乱に巻き込まれ、奇跡的に助かった命だった。織田家の家臣、蒲生に拾われた後、忍びの修練と研鑚を積み、徳川の懐刀、本多に飼われることになった。多くの藩を取り潰す陽忍として暗躍し、双馬藩を取り潰す役目を持って、内から瓦解すべく忍び込んだ。於義丸の忍びとしての資質は、織田家によって壊滅状態にされた伊賀の長...

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露草の記・参(草陰の露)3

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兼良は持って来たずしりと重い木箱を、本多の眼前に置いた。「これは香典ゆえ、本多さまが御存知よりであれば、露丸なるものの身内にお渡し下さい。そしてできれば、御伝えいただきたい。」「ふむ……。なんと?」「以後の三年、七年の法要も、せめてもの詫びに双馬藩菩提寺で執り行いまする。この兼良が藩主の名代として約定いたすゆえ、亡き者のことは今後も、気に留めぬようにと。」露丸こと於義丸の生存には触れず、既に亡くなっ...

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露草の記・参(草陰の露)4

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本多は養父に連れて来られたばかりの露草の、哀しげな瞳を思い出していた。いつも物憂く、遠くを見ているような眼差しだった。*****天下を取るには各地の情報収集が欠かせぬものとして、下忍を召抱えるよう徳川に進言したのは他ならぬ本多だった。関ヶ原の後、どうしても配分する恩賞が足りず、豊かな諸藩を巻き上げる足掛かりを作る為、陽忍の使用を決めた。露草という名の陽忍は、織田に滅ぼされた伊賀忍の幼子で、織田の家...

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露草の記・参(草陰の露)5

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凍り付いて笑みさえ浮かべぬ情の強(こわ)い少年に、何をされても耐えよ、忍びは人ではない、風の言うまま揺れる草なのだと、養父は何度も諭したが、露草に変わりはなかった。頭では分かっているつもりでも、身体が裏切り思うようにならなかった。本多がどれほど優しく手をかけても、頬を濡らし息を詰めているばかりだった。自分でももどかしく、申し訳ございませぬと頭を下げた。後孔に丁子油を垂らし、何とか身体を入れても息を...

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露草の記・参(草陰の露)6

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この日を境に、何故か大人たちが踏みしだいてきた露丸がふわりとほぐれて、養父が待ち望んだ「艶」を浮かべるようになる。その夜、露草は自分から養父のもとに出向き、本多さまのお閨に行きたいのです、と口にした。「父者。今度こそきちんとお役目に励むゆえ、もう一度本多さまにお願いしてくだされ。これ、この通り。」露草は殊勝に手をついた。「露草。お願いするのは良いが、もう二度と出来ぬとは言えぬぞ。」「あい。必ずお役...

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露草の記・参(草陰の露)7

歴戦で負った、引きつった傷の入った本多の無骨な手に指を絡め、それから幾度、露丸は美しい貌を傾け頬を寄せただろう。「本多さま……。今宵もつゆを、たんと可愛がって下さいませね。」百戦練磨の本多さえ、思わずぐらりと揺れる忍びの閨房の術……。衣擦れの微かな音を寝所に響かせて、揺れる行灯の心もとない光に「草」は妖しく蠢いた。夜目に浮かぶ白い足が薄く汗をかいてたわみ、素股が蜜壷となって本多を追い詰めてゆく。「むっ…...

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露草の記・参(草陰の露)8

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天守から見下ろす本多の目に、疾風の如く去り行く客人の二頭の馬が見える。思わぬことから双馬藩の金山が手に入り、本多は内心悦に入っていた。思えば、双馬藩を取り潰しに行けと告げた日が、本多と忍び露丸の別れになった。もう逢うことはないかもしれぬと、本多は遠く双馬藩に身を置く草の面影を思った。「居場所を見つけたか、露丸……いや、今は於義丸と言う名であったか。」振り返った寂しい露丸の面影に、心の内で声をかけた。...

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露草の記・参(草陰の露)9

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於義丸の緊張が、何処か解けている様な気がするのは、もう追手に怯えずとも良くなったからかもしれない。藩主と兼良は、かねてより考えていた元服の話を、改めて口にした。初陣を済ませたとはいえ、実際は於義丸が影として出陣していたし、秀幸は仮元服のままだった。「於義丸、古巣と話が付いて良かったのう。これで次の吉日には晴れて、家中に安名義元の名を披露できる。盛大に元服の儀を執り行うからの。」「そうとも。名実とも...

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