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Archive: 2012年02月  1/3

わんことおひさまのふとん 4

夏輝の指を、いつものように吸っていると、ある日とても甘い匂いがした。肉球で押さえて思わず顔を見上げ、「きゅん~?(あれ~?)」と、聞いてみた。「あはは……、甘いだろ?」葉山夏輝は、俺が驚いたのを見て、ずいぶん嬉しそうだった。ホットケーキのメイプルシロップを塗って、俺がどんな反応をするか笑って観察していた夏輝。それから時々、指に塗ってくれる甘い密は、俺の大好物になった。炊飯器で焼いたホットケーキは、卵...

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わんことおひさまのふとん 5

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犬の成長は早い。一歳で成人する勢いだ。本当だったら、一か月にも満たない小犬の俺は3歳くらいなんだろうと思う。一度、表で同じくらいの奴に声を掛けたら「まんまと、ぶーぶー」しか言えないのに驚いた。余りの幼さにびっくりして思った。俺、少なくともわんこの世界では、お利口さんに入る部類かも。俺はちびだけど不思議と色々なことを考えていたし、自分で言うのもなんだけど俺の「おひさまのおふとん」夏輝の気持ちがすごく...

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わんことおひさまのふとん 6

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俺は一目散に霊験あらたかな白狐さまの「荼枳(だき)尼(に)神社」に走った。夏輝、待ってて。お前が大好きな文太に何も言えないで、毎日泣いているのを俺は知っている。せめて、文太に夏輝の気持ちを代わりに伝えてやりたいと思った。これが、一宿一飯の世話になった俺の漢気だぜ。全速力で駆けた町はずれの寺の境内には、「荼枳尼神社」の祠があるはずなのだ。「あれ?……祠ってどんなのだっけ……。」境内を走り回ったけど、ちゃんと...

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わんことおひさまのふとん 7

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気が付いたとき、俺の手のひらに肉球はなかった。俺のぷにぷにが大好きな夏輝。ぷにぷにのないつるりとした俺の手を見たら、夏輝はどう思うだろう。「お。気が付いたか?」白狐さま……?……じゃない、誰か知らないおっさんの声がする。「おめぇ、封印中の白狐に取り入るなんざ、チビのくせに要領の良い奴だな。ん?」俺を覗き込んだのは、偉く迫力のあるおじさんだった。俺の好きな任侠の匂いがぷんぷんする、苦み走った男の中の男と...

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わんことおひさまのふとん 8

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「おまえ、ジョゼフィーヌに似てるな。」「似てないよ。だって、俺は母ちゃんに似てないからって捨てられたんだもの……。」「何言ってんだ。そっくりじゃねーか。そこの御神鏡覗いてみな。」白狐さまの祠(ほこら)の中で、ぼうっと輝く鏡を覗いて俺はひっくりかえりそうになった。「かあちゃんっ!?」「かあちゃんだっ!かあちゃん!…会いたかったよぉ~~~え~~~ん……・」思わず、その場で俺は母ちゃんを思って慟哭した。鏡の中...

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わんことおひさまのふとん 9

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「ナイト。息を吐いて、力を抜きな。」「う……う……ぅ。」「怖くないぞ。元々、俺たちを作った神さまはな、誰も独りでは生きてゆけないように生き物を作ったんだ。」「神……さまが?」「ああ。ナイトも一人ぼっちになった時、胸に風が吹いただろう?夏輝と出会ったとき、陽だまりに居る気がしただろう?」「う……ん……夏輝は、俺のおひさまのふとん……なんだ。」俺の開いた足の間で勃ちあがった前しっぽに、白狐さまの白い手が触れ緩く上...

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わんことおひさまのふとん 10

目が覚めたらすっぽんぽんの足首に、夏輝が俺に買ってくれた、鈴の付いた紅い首輪が付いていた。「猫用だけど、ナイトにはこの色が似合うから、これでもいいよな?」「わん~っ。」ホームセンターのお姉さんが、俺たちのやり取りを聞いて、うふふ、会話してるみたい、可愛いと笑っていた。……そうだ、夏輝!うっかり気持ちが良くて、忘れるところだった。一宿一飯の恩義を果たすために、俺はここへ来たんだ。「夏輝―――っ!」俺は一...

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わんことおひさまのふとん 11

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人型になったら何でもできると思っていたのに、余りの無力に打ちのめされて、俺は鳴いた。声を殺して泣いていたが、いつしか嗚咽が漏れた。「うっ……う、うわあぁ~~~ん……。」「うわ……おい……。何だ、何だ……?」傍目には文太がふわふわした恋人を、宥めてる風に見えているんだろう。遠巻きに人が見ていた。「よしよし。大丈夫だからな。」文太は夏輝と違った汗臭い腕で、俺をぎゅっとした。心から俺を心配している優しい気持ちが流...

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わんことおひさまのふとん 12

夏輝は泣きたい気持ちを堪えて、俺のことを一生懸命、街中捜し回っていたらしい。「すみません。黄色っぽい白い毛がふわふわしたこんな小犬、見かけませんでしたか?耳の上に茶色のメッシュが入ってるんです。猫用の、鈴の付いた細い赤い首輪してるんです。」「さあ……。見かけなかったわねぇ。」「見たことないなぁ。」「そうですか。足を止めてすみません。ありがとうございました。」いつも一緒に歩いた駅周辺や、スーパーの入り...

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わんことおひさまのふとん 13

            もう駄目だ……。俺……夏輝に嫌われてしまった……毎朝食べるたまごかけごはんも、夜のぱんのみみのパン粥も、バイトの給料日にだけ買うオージービーフも……もう一緒に食べることはない。凍える夜に手を差し伸べてくれた、誰よりも大好きな……夏輝に嫌われてしまった……。傷心の俺はひたすら駆けた。周囲の人垣が開いて俺を飲み込んで、再び閉じてゆく。泣きながら走る俺に手が伸びる。「どうしちゃったの~、君、...

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