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Archive: 2011年04月  1/3

金銀童話・王の金糸雀(二部) 5

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一夜の遊び相手としては最高の相手でも、結婚相手となると後の世に子孫を残せないため、周囲の理解を求めるのも難しく、カストラートはあくまでも特殊な存在だった。小鳥のように無垢だったミケーレも、成長するにつれやがて少しずつ世間の事を理解するようになってゆく。貴族に呼ばれる宴席での飾らない会話の中に、隠された隠微な「天使」の真実も見えるようになって、本当の「天使」の意味も知るのだった。多くの貴族や高位聖職...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 6

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丘陵を駆け抜け、荒れた地を北へと馬車は休むことなく走った。時折、窓から覗く景色の中に恐ろしい姿を見つけて、ミケーレは戦慄した。遠くにいても噂に聞いていたが、実際に槍に突き刺され晒された人の姿が、車窓から流れて行く。街道はどこまでも、死体が放つ腐臭に覆われていた。「あれは、そなたに覚えのある、湖の城の役人達ではないかな?」「馬車の窓から、よくご覧。おまえの知っている顔があるだろうか?」優しげな王さま...

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金銀童話・王の金糸雀(二部)  7

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ミケーレの心臓は早鐘のように打ち、鼓動が部屋の空気を振動させているような気がしていた。「ねぇ、アレッシオ。あなたも、この子の歌を聞く?」揺り椅子の上に置かれたものに視線を移しお后さまは、こともなげに話しかけていたが、金糸雀は意識をふっと失いそうになった。側にいた王さまの忠実な司令官が、咄嗟に支えてくれなければその場に倒れていただろう。「何かおっしゃい、アレッシオ・・・そう、今日は気分が悪いのね。」...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 8

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金糸雀の学んだ、ナポリの音楽学院の授業は、とても厳しいので有名だった。課題の難解さに逃げ出したものは数知れず、両親の過度の期待に押しつぶされたり、自信喪失のあまり高い時計台から地上に向かって身を投げた者もいた。音楽学院では、食事と短い午睡(昼寝)、運動のための散歩の時間、貸し出された葬儀への参列(小天使になって歌うこと)以外は、カストラートになった者の時間はすべて呼吸法の会得に費やされた。華やかな...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 9

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その頃、ナポリの音楽学院は、トニオや多くの生徒と共に出かけたはずの、天才カストラート・ミケーレが行方不明になって、大騒ぎになっていた。嫌がったミケーレを連れ出し、行方不明にさせたのは自分だと言って、トニオは酷く自分を責めていた。やがて、類希な才能を持ったカストラートが、何者かに誘拐されたに違いないと思った学院長は、速やかに教皇庁に報告する。教皇のお気に入りは、なんとしても探しだし、学院に取り戻さな...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 10

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金糸雀が鳥籠に幽閉されて、もう何ヶ月も経っていた。緑の森では、一見何も変わりはなかった。しかし、実際は残虐な王と王妃の知らぬ所で、異端者として裁かれる日が迫り来ようとしていた。異端審問とは、主の教えと考えを同じくしないものを「異端」と捉え、これを粛清することだった。「悪魔につかれた」と思われた人々を捕らえては民衆法廷で裁いていたのだが、余りに常軌を逸した緑の森のお后さまは、「魔女」ではないかとの噂...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 11【R-15】

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お后さまのお気に入りの、自動人形の注文主の名を教えてくれと、銀色のカストラートは熱に潤んだ瞳を向けて身体をねじり、ねだっていた。「そんなことを聞いて、どうするのだ?」息遣いの荒くなった金糸雀の顔を覗いながら、商人の眉が緩くひそめられた。「わたくしの・・・この姿を写した、自動人形があれば・・・あっ・・・」心にもない作り話は、褐色の皮膚の上に甘く滑ってゆく。まるで楽器をつま弾くように、異国の商人は銀色...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 12

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躊躇(ためら)う事無く、王さまの忠実な司令官は、腰の刀で大きな錠を破壊すると駆け寄った。「金糸雀――っ!?」銀色の乱れた髪をかき上げると、焦点を結んでいない瞳は見開かれたままで、思わず王さまの忠実な司令官は、頚動脈に指を添わせて脈を取った。金糸雀は、告げられた信じがたい真実に、目を見開いたまま気を失っていた。王さまの忠実な司令官が、急いで気付けの為の強い酒をあおり口移しに流し込むと、激しくむせ返って...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 13

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お后さまの傍らに侍る、アレッシオ人形を遠ざけること。唯一、お后さまが元に戻る望みと方法があるとすれば、それだけだった。金糸雀は自分の持てる全てをなげうって、アレッシオ殿下に瓜二つの自動人形と、歌比べをしたいと望みを告げた。時間をかけて懐柔した商人の口添えもあり、その日、機嫌のよかったお后さまもついに納得したのだった。でも、金糸雀はまだ知らなかった。もうすぐ、緑の森の城は、異端審問の嵐が吹き荒れるこ...

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金銀童話・王の金糸雀(二部) 14

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東の国の商人が、大きなぜんまいを差し込もうとしたとき、ぜんまいの入る穴からとろりと、錆で濁った機械油が溢れ出した。そして、がくがくとアレッシオ人形は上顎を鳴らして、数回はずれた音を吐き出すと動かなくなったのだ。「アレッシオ!」お后さまは、半狂乱のようになってオートマタを揺さぶったが、人形はもうすっかりただの廃品となって、長い睫毛も瞬きもせず、ぴくりとも動かなかった。膝の上からずり落ちるとき、頭に被...

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