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Archive: 2010年07月  1/3

小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・作品概要

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<作品概要>炎の中に全てを失った男は、辿りついた町で幼い少年海広(みひろ)と出会い共に暮らすことになる。落ち着いた暮らしを手に入れたかのように見えたが、少年の心はいびつだった。凍える月・(オンナノコニナリタイ)この作品は、性同一性障害を扱っております。一部BL表現と性表現があります。自分らしく生きようとする主人公を取り巻く環境の表現等が、外せない必要箇所ではありますが一部公序良俗に反し、一般的ではな...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・1

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最愛の妻と息子の面影を、思い浮かべぬ日はない。あの冬の日から、俺の時間は止まったままだ。あの日、見上げた目に映ったのは、俺の全てを奪い焼き尽くす、天を突く紅蓮の焔だった。にほんブログ村にほんブログ村...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・2

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身体の不自由な俺の母親を引き取って以来、妻はパートの仕事を止め、一切の介護を買って出た。長男夫婦から聞かされる、毎日の愚痴にいささか参っていた俺は、まるで渡りに船とばかりに妻の好意に甘え、世話を押し付けてしまった。年を経て住居を移したにも関わらず、少し痴呆の始まった母親は、幼い子どものように妻になついた。お袋は言った。「この家に来て、幸せだねぇ。みんな、優しいねぇ。」目尻に浮かぶ涙を見たとき、引き...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・3

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暖簾をくぐって、親父に「ご馳走さん」と声をかけ、ふと見上げた東の空が、赤く染まっているのに気付く。何台もの消防車と救急車とパトカーが、忙しなく赤色灯を回転させながら横を駆け抜けて行く。その時、俺は何となく胸騒ぎがしたのだ。携帯で妻に電話をかけたが、呼び出し音が尽きても、彼女は出なかった。やじうまでごった返す歩道を避け、俺は車道を走った。火の上がった方向には、新築したばかりの自宅があった。燃え盛る火...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・4

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気が付いたのは、総合病院の寝台の上だった。喉に包帯が巻かれ、声は出ない。頭と喉が酷く痛んだ。上げた手にも、白い包帯が巻かれていた。「松原さん、気が付きましたか?」遠くで看護師の声がする。「すぐに先生をお呼びしますから・・・」同情と哀れみ。憐憫の表情に、俺は失ったものの重さを知った。全てが俺を残して、手の届かぬ場所へ行ってしまったのだ。同じ病院の遺体安置所で、俺は最愛の家族に別れを告げた。御遺体は、...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・5

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覚えているのは、止める手を振り切って、玄関に辿り着き、扉に手をかけたところまでだ。一気に酸素が入り込み、密閉された空間はバックドラフトを起こし爆発した。爆風を吸い込み、一瞬で気管と上半身の出ている所を焼いた。そのまま車道まで飛ばされて、アスファルトで頭を打ち気を失ったらしい。「しばらく入院していただきます。」遠くで医師の声がする。「右側のこめかみから後頭部にかけての火傷は、お気の毒ですが痕になるで...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・6

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目に付いた駅前の不動産屋に入り、家を探してくれるように頼んだ。 「しばらく、この町で暮らそうと思ってね。」 不動産屋は、火傷の癒えていないこめかみの大きな絆創膏と頭部に目をやって胡散臭い目で、しばらく見つめていた。 仕方なく、自宅の土地を処分してもらうはずの不動産屋の名刺を出したら、ころりと態度が変わった。 どうやら系列の業者同士で、すぐに確認し、家賃滞納の心配などないと思ったらしい。 マンションを買...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・7

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まだ、まともな会話すら成立しない。幼い子ども相手に、意思の疎通を図るのはもう止めた。頭に包帯を巻いた、変なおじさんに声をかけられたと、誰かに言われるのもどうかと思う。開いたエレベーターに、乗り込もうとしたとき、入れ違いに降りた金髪の若い男が、子どもを捕まえた。ジャラジャラと、耳や、鼻や、唇にまでピアスをした、整ってはいるけれどどこか不潔な印象の青年。「こら、みぃ、抜け出すんじゃねぇって言ってるだろ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・8

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迷子の迷子の、子猫ちゃんに繰り返して問うてみた。「あなたの、おうちはどこですか?」大きな黒い目が、悲しそうに光る。「みぃくんのおうち、どこかなぁ?」単語の羅列はおぼつかなくて、会話にすらならない。時間は有り余っているが、相手にするのは億劫だった。大体、何故勝手に人の家に上がりこんでいるんだ?その時、俺はやっと思い出した。あ、夕べうっかり鍵をかけずに寝てしまったせいだな・・・。迷子の子猫はベッドサイ...

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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・9

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小さな訪問客が帰った後、ふと時計を眺めれば既に昼前だった。どんなに空虚な心を抱えていようと、悲しみに溺れていようと腹は空く。生きている限りついて回る欲求は、驚くほど残酷だ。腹の空く自分を恥じた。真新しい位牌を三柱、取り出して、日の差すテーブルに並べた。「しばらくここで暮らすんだ。」誰に言うとも無く、告げた。「居心地は良くないかもしれないけど、しばらく辛抱してくれよ。」「さて。病院へ行ったら、飯でも食...

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