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Archive: 2010年04月  1/1

小説・初恋・35

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如月湖西は、怪我をした孫を病院に移すという名目で、護衛を連れ4頭立ての馬車でやって来ていた。校医の見立てでは、腰の傷は、全治に二週間程度かかるだろうということだった。出来ればちゃんとした病院で、傷をふさぐ手術をしたほうがいいと勧められたが、それはそのまま奏を移動させる口実になる。「聞き分けのない事を言うものだ。このままここで、傷が悪化したらどうするんだね。」湖西の口調は、恐ろしいほど優しく、有無を...

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小説・初恋・36

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「奏さまが死んでおしまいになるかと思って、必死だったんです。」「・・・それで、構わなかったのに。」白雪は、あんまりだと言って泣いた。側に控えるだけの白雪の感情が、珍しく露わになったのは、ひたすらの忠義だろうか。颯は征四郎にするように、白雪をひょいと膝の上に載せて、よしよしと頭を撫でてやった。「湖上様。」しばらく、されるままだった白雪が、涙を拭いた。「ん?」「一度、聞きたかったのですが何月生まれです...

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小説・初恋・37(父の遺言)

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遺言について、奏に何故知らせなかったのか、清輝は疑念を白雪に投げてみた。「殿様が、どうあっても奏さまをお放しにならなかったのです。」「奏一郎様が、不幸にも病に倒れてからは、尚更、片時も。父が言うには弾薬が雨あられと降りそそぐ九州討伐にさえ、幼い奏さまをお連れになったそうです。」執着の余り理性のたがが外れ思考が混濁しても、跡継ぎを失いたくないと言う、妄執の意識だけは残ったのだろうか。殺戮の場を転々と...

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小説・初恋・38

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白雪省吾様父上に、お願ひし度しと思つたるも、會つても下さらぬ。餘が死んで、忠義な君の手に渡る事を願ふ。狂人の手に、養育を任せる事丈は囘避し度いのにて候。 君の手元で育てられないならんか。どうか、心中よりお願ひす。 父上様斯くの如き病さへ得ざりしらと思ふと、奏一郎は口惜しく、殘せらるゝ奏が不憫でなり候はず。悉くを、長い不遇の時代のせゐにしてはなりませんし、如月の家は餘の代で終はりにせる積りにて候。ご安...

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小説・初恋・39(それぞれの道)

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狂人は、精神病院に送られることなく、田舎の領地にある別邸に押し込められることになった。湖西に拾われた白菊が、どこまでも供をすると言い張り、願いは聞き遂げられた。白菊にとって、湖西は周囲がどういおうと命の恩人で、お側に居たいと頑なに言い張った。「修羅の戦場から、馬上に引き上げられた時の御恩を思うと、離れることなど出来ません。」「殿様が奏さまにどんなひどいことをしても、僕だけは、殿様に救われたのです。...

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小説・初恋・40

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いつか建築家と約束した通り、颯はコンドルが講師を務める工大に、望みどおり進学した。医学部へ入った清輝は猛勉強の結果、官費留学の狭き門をくぐり抜け、やがて二人は揃って一年間の渡欧の切符を手に入れた。「私の教え子は、皆、優秀です。」同窓生の中に優秀な官費留学の生徒を出して、華桜陰高校のモンテスキュウ教授は機嫌が良かった。「如月君には、よく会うんですか?」問われて、颯は首を振った。「いえ。僕も会うのは卒業...

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