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Archive: 2010年02月  1/2

小説・初恋・24

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「そうか、良かった・・・。如月に恥をかかせてしまったかと思って、心配だったんだ。」賞賛の渦中にあった自分の事を、何も分かっていない目の前の級友は、鞍を置いていない毛並みの良い若駒のようだ。声を潜めて、耳元で颯は言った。「君の舞踏が、一番美しかった、如月。」「母上の次にね。」屈託の無い笑顔で、手を振って最後の客は退出した。「あれは?」肩をすくめて、奏は湖西から話をそらした。「ただの級友です、お爺様。...

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小説・初恋・25

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如月湖西は江戸末期、動乱のさなか、困窮する多数の公達の中の一人だった。その日食べるものにも困るほどの貧困にさいなまれ、高い自尊心は苦しみもがいていた。白湯だけ飲んで、眠りに付く日が何日も続くと次第に少量の食事で我慢できるようになる。邸宅と言っても、雨露をしのぐのも怪しい代物で、実際雨の降る日は悲惨だった。年代物の御簾も、糸が切れさざらになり座布団の表もいつ変えたかわからない。そんな日々の中、雅な遊...

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小説・初恋・26

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その頃、醜女の妻女が産んだわが子は玉のように美しく、湖西は自分の血に心から満足した。誇り高い如月湖西の血は、何者にも邪魔されることなく、何があっても清らかなまま汚れたりはしないのだ。豪商の竹野家に望みどおり、高貴な血を引く跡取りをくれてやって、湖西は約束どおり離縁し自由の身となった。もう迷うことは何もなかった。次の結婚相手も、同じような相手を見つけて来ればいい。金さえ積めば誰にでもなびく男妾、陰間...

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小説・初恋・27(如月奏一郎の悲しみ )

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ほどなくして如月奏一郎は、父の精神異常に気が付いた。婚約者を失ってから数日を置いて、性急に見合わせられた遠縁の沙耶宮は、30を越えて手まりをつき、人形を抱く童女だったのだ。戦慄の婚姻を勧める父に、奏一郎は絶望し、実家に戻ろうとするが、既にそこは家屋すらない更地になっていた。全て、湖西の歪んだ思惑通りに進む・・・「お父様は、とてもお寂しい方でした。」天然痘のあばたが残り、見目は確かに人並みとは行かなか...

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小説・初恋・28

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なんとしても、この子を父に任せるわけにはいかない。そう決心した奏一郎は、湖西から息子を守るため、自分の力で乳母と養育係を必死で探した。亡き婚約者の妹が、姉の愛した人の願いを、二つ返事で引き受けてくれた。乳母は、ただ一人心を許せる執事の白雪の妻が、自分も子供を生んだばかりで、運よく名乗りを上げてくれた。側にいれば、免疫力のない赤子に自分の肺病は感染してしまう・・・ひたすら静養に勤め、好転するかに見え...

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小説・初恋・29(血の飛沫)

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翌日、颯は舞踏を指南してくれた教授にも、不首尾に終わった旨を伝えていた。「すみません。土壇場で、怖気づいてしまいました・・・。」にこやかに頷いたモンテスキュウ教授は、颯の夜会での話を既に知っていた。思いがけず、つい何故かと訊ねた。「夜会の後、料亭で政府関係の外国人の集まりが有ってね。」「侍の舞うのを見たと、コンドルが喜んでいましたよ。」頭を下げに行った颯は、世間の狭さに眼を丸くしていた。「余りに古...

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小説・初恋・30

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白雪の思いつめた眼に気が付いて、清輝は話題を変えた。「君も、ここにお座りよ。僕らの小姓というわけではないのだし、友人で良いじゃないか。」何だか、ただの会話のはずなのに、白雪を詰問しているようで居心地が悪く、颯は立ち上がって窓を開けた。「・・・公家華族ってのは、何かと面倒だねぇ。」「・・・・」しょんぼりとうつむいてしまった白雪に、清輝が慌てた。「白雪。今のは君に向けた言葉ではないから。」「颯さまった...

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小説・初恋・31

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ばんと、唐突に扉が開いた。「奏さま!」一瞬不愉快そうに、眉がひそめられた。視線は、テーブルの上の茶器に向けられていた。「喉が渇いたので、白雪に所望した。留守に勝手に押しかけて、悪かった。」何も悪いとは思っていないから、颯の声は当然明るい。「いえ。どの道、あなたに使いをやるつもりでした。」小姓に向き直った。「・・・気の利かぬことだ。」「白雪、茶菓子は?」「あ。帰りに虎屋に寄って参りました。」ぱたぱた...

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小説・初恋・32

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「奏さま・・・奏さま・・・」忠義な白雪は、辺りを片付けることも忘れて震えながら、小さく奏の名を呼んだ。「いつかはこうなると・・・ああ・・・」「分かってた?犯人に心当たりがあるのか、白雪。」「殿様は・・・いつも。いつも、奏さまを苦しめるのです。」白雪の話は、抽象的で颯を混乱させた。如月候の仕業なのか・・・?まさか。しかし、白雪は言葉を重ねた。「殿様は、狂っておいでです。」百合の花弁のような白い指が伸...

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小説・初恋・33

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「星龍号をお使い下さい。」いつもと違う奏の様子に、白雪が血相を変えて、とにかく急ぐようにと颯を促した。「芳賀様に、国許に電信を打つように、お伝えしておきます。あと、県令につながるようなら、電話も。」「そんなことまで?」部屋の外を駆けながら、白雪の説明も腑に落ちない。「何故、聡子さんが襲われる?如月の周りで、何が起こってるんだ?」「奏さまが、湖上さまをご友人と紹介したのがいけなかったのです。きっと。...

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