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Category: だいじろうくんの事情  1/1

だいじろうくんの事情 1

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さあちゃんこと金剛禎克(こんごうさだかつ)は、その夜から熱を出した。大好きな大二郎がいなくなった哀しみと空しさがごちゃごちゃになって、小さな身体には受けとめきれなかった。熱にうなされ、時折り「大二郎くん……」と求めるのが、なかなか素直になれなかった禎克の本心だったかもしれない。大二郎くんと呼びかければ、夢の中で紅いお振袖を着た禿も、頬を濡らして「さあちゃ~ん」と泣いた。悲しくて悲しくて、たまらなかっ...

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だいじろうくんの事情 2

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「羽鳥、忘れるなよ。大二郎の母親が亡くなって、生きながら死んでいたようなおれが、ここまで何とかやってこれたのは、お前が諦めずに毎日励ましてくれたからだ。柏木醍醐の相手役は、お前以外に務まらない。お前じゃなきゃ駄目だ。」醍醐はぽんと、持ってもいない長煙管を煙草盆に打ち付けるような仕草をした。見えない花魁のまな板帯をぐいと持ち上げ、台詞を続ける。「わっちは、腹を決めんした……。この命の尽きるまで、どこま...

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だいじろうくんの事情 3

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救急車で運ばれた母親は、医師が思わず息をのんだほど、ひどい状態だった。浮腫が酷く足がぱんぱんに腫れていたのを、緩いジャージで隠していたようだ。救急病院の当番産科医は顔をしかめ、母体の安全は保障しかねます、直ぐに、お身内を呼んでくださいと告げた。「こんなになるまで、ほおっておくなんて……。一体、ご家族はどうしていたんです?」羽鳥は言葉を無くし、横たわる醍醐の妻に縋った。毎月、興行する場所が変わる暮らし...

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だいじろうくんの事情 4

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羽鳥は、そんな命がけの思いには叶わないと思ったが、託された思いに応えるように必死に一座を盛り立てた。子育てなど関わったこともなかったが、夜中に起きてミルクを作り、周囲の力も借りて懸命に大二郎を育てた。最愛の妻を失って、落ち込む醍醐を叱咤し、決して舞台に穴をあけさせなかった。だからこそ劇団醍醐は持ちこたえたし、今があると醍醐自身も思っている。いつも影のように寄り添って、羽鳥はずっと傍に居た。****...

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だいじろうくんの事情 5

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「大二郎。」緞帳の向こうから声を掛けられて、振り返る。「ちょいと外へ出るぞ。散歩に行こう。」「はい。」派手なロゴが入った外国製のジャージを着た醍醐が、息子を誘った。「ちゃんと回れるように、おさらいしたか?」「はい。もうできます。」「泣いたのか?涙の跡が付いてるぞ。」「あ……。」ごしごしと目許をこすって、大二郎はゴミが入ったからと言い訳をした。醍醐は父親らしい優しい目を向けた。「同じ嘘を言うのなら、も...

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だいじろうくん

上手に踊れなかったので、一人練習している大二郎くん。涙がぽろり……。こっそり、ⓒくるみさんからのいただきものです。かわゆす……(*ノ▽ノ)キャ~ッにほんブログ村...

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だいじろうくんの事情 6

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日々の暮らしの中で、一度口にした台詞は、体の中に似染み込むように、大二郎の物になっている。打てば響くようにすぐに台詞が出てくるのが、天才子役と言われる所以だった。滑り台の狭い台の上で、大二郎は母を恋う「番場の忠太郎」になった。やっと探し続けた母親につれなくされて、身をふり絞る場面だ。「おっ母さん。いや、お浜さん。……どうしてもおいらを、倅(せがれ)の忠太郎とは呼んで下さらないんですかい。」醍醐が答え...

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だいじろうくんの事情 7

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禎克と別れた後、こんな風に大二郎は、旅から旅の舞台三昧で忙しく日々を暮らしていた。毎日の演目に追われ、覚えることはいっぱいあった。本格的な日舞の稽古、殺陣の練習も小学校に上がる前の年から始まった。時おり、遠くのさあちゃんを思い出すことはあっても、仕事に支障をきたすような我ままは言わない。周囲を困らせても仕方のないことだと、大二郎は十分に理解していた。働かない者は、おまんまを食えない。そんな暗黙のル...

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だいじろうくんの事情 8

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ある日、子役を探していたテレビ局のプロデューサーが、大二郎の噂を聞いて公演先に足を運んだ。年末大型時代劇に出演する子役を捜していたと言うその人は、その日の演目を見て迷わず大二郎に白羽の矢を立てた。板の上では小さな大二郎が、三度笠に合羽姿で、いなせな渡世人、番場の忠太郎となり多くのご婦人を涙に誘っていた。舞台がはねた後、大二郎を傍に呼びつけた醍醐が、満面の笑みを向けた。「大二郎!テレビに出られるぞ。...

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