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Category: 露草の記・参(草陰の露)  1/2

露草の記・参(草陰の露)【作品概要】

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命がけで主人を守った「草」に報いるため、双馬藩は大枚をはたき、徳川から忍びの命を買う事にした。陽忍「露草」が心から求めるものは、命に代えて守った唯一無二の主君だけだった。求めても決して報われることのない思いは、切ない。いつか傍らに添う、あどけない嫁御寮と主君の命を業病から救い、役目を終えた儚き草が選んだ道は……。「露草の記」最終章です。五分後、連載開始ますので、どうぞよろしくお願いします。此花咲耶...

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露草の記・参(草陰の露)1

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あれから季節は移り、於義丸が床から眺める桜は散華し、既に葉桜になっている。喉に重傷を受け長く声を失っていた於義丸は、ようようほんの小さな囁くような声を、発することができるようになっていた。「気分は、どうじゃ?おギギ。」日々何度も、秀幸が見舞いと称して、部屋を覗きにやって来る。膝をつき、そっと布団を引き上げてやった。その声掛けもいつも同じで、於義丸はふっと笑顔を向けた。自分に向ける秀幸の不器用な優し...

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露草の記・参(草陰の露)2

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藩主が買って参れと義弟に命じた於義丸と言う少年は、実は伊賀の里出身の「忍」である。幼い時に、天正伊賀の乱に巻き込まれ、奇跡的に助かった命だった。織田家の家臣、蒲生に拾われた後、忍びの修練と研鑚を積み、徳川の懐刀、本多に飼われることになった。多くの藩を取り潰す陽忍として暗躍し、双馬藩を取り潰す役目を持って、内から瓦解すべく忍び込んだ。於義丸の忍びとしての資質は、織田家によって壊滅状態にされた伊賀の長...

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露草の記・参(草陰の露)3

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兼良は持って来たずしりと重い木箱を、本多の眼前に置いた。「これは香典ゆえ、本多さまが御存知よりであれば、露丸なるものの身内にお渡し下さい。そしてできれば、御伝えいただきたい。」「ふむ……。なんと?」「以後の三年、七年の法要も、せめてもの詫びに双馬藩菩提寺で執り行いまする。この兼良が藩主の名代として約定いたすゆえ、亡き者のことは今後も、気に留めぬようにと。」露丸こと於義丸の生存には触れず、既に亡くなっ...

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露草の記・参(草陰の露)4

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本多は養父に連れて来られたばかりの露草の、哀しげな瞳を思い出していた。いつも物憂く、遠くを見ているような眼差しだった。*****天下を取るには各地の情報収集が欠かせぬものとして、下忍を召抱えるよう徳川に進言したのは他ならぬ本多だった。関ヶ原の後、どうしても配分する恩賞が足りず、豊かな諸藩を巻き上げる足掛かりを作る為、陽忍の使用を決めた。露草という名の陽忍は、織田に滅ぼされた伊賀忍の幼子で、織田の家...

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露草の記・参(草陰の露)5

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凍り付いて笑みさえ浮かべぬ情の強(こわ)い少年に、何をされても耐えよ、忍びは人ではない、風の言うまま揺れる草なのだと、養父は何度も諭したが、露草に変わりはなかった。頭では分かっているつもりでも、身体が裏切り思うようにならなかった。本多がどれほど優しく手をかけても、頬を濡らし息を詰めているばかりだった。自分でももどかしく、申し訳ございませぬと頭を下げた。後孔に丁子油を垂らし、何とか身体を入れても息を...

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露草の記・参(草陰の露)6

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この日を境に、何故か大人たちが踏みしだいてきた露丸がふわりとほぐれて、養父が待ち望んだ「艶」を浮かべるようになる。その夜、露草は自分から養父のもとに出向き、本多さまのお閨に行きたいのです、と口にした。「父者。今度こそきちんとお役目に励むゆえ、もう一度本多さまにお願いしてくだされ。これ、この通り。」露草は殊勝に手をついた。「露草。お願いするのは良いが、もう二度と出来ぬとは言えぬぞ。」「あい。必ずお役...

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露草の記・参(草陰の露)7

歴戦で負った、引きつった傷の入った本多の無骨な手に指を絡め、それから幾度、露丸は美しい貌を傾け頬を寄せただろう。「本多さま……。今宵もつゆを、たんと可愛がって下さいませね。」百戦練磨の本多さえ、思わずぐらりと揺れる忍びの閨房の術……。衣擦れの微かな音を寝所に響かせて、揺れる行灯の心もとない光に「草」は妖しく蠢いた。夜目に浮かぶ白い足が薄く汗をかいてたわみ、素股が蜜壷となって本多を追い詰めてゆく。「むっ…...

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露草の記・参(草陰の露)8

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天守から見下ろす本多の目に、疾風の如く去り行く客人の二頭の馬が見える。思わぬことから双馬藩の金山が手に入り、本多は内心悦に入っていた。思えば、双馬藩を取り潰しに行けと告げた日が、本多と忍び露丸の別れになった。もう逢うことはないかもしれぬと、本多は遠く双馬藩に身を置く草の面影を思った。「居場所を見つけたか、露丸……いや、今は於義丸と言う名であったか。」振り返った寂しい露丸の面影に、心の内で声をかけた。...

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露草の記・参(草陰の露)9

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於義丸の緊張が、何処か解けている様な気がするのは、もう追手に怯えずとも良くなったからかもしれない。藩主と兼良は、かねてより考えていた元服の話を、改めて口にした。初陣を済ませたとはいえ、実際は於義丸が影として出陣していたし、秀幸は仮元服のままだった。「於義丸、古巣と話が付いて良かったのう。これで次の吉日には晴れて、家中に安名義元の名を披露できる。盛大に元服の儀を執り行うからの。」「そうとも。名実とも...

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露草の記・参(草陰の露)10

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やがて藩内にふれが出され、元服後の二人が家臣一同に披露された。大広間に並び立ち、多くの家臣を迎えた秀幸と義元の武者振りに、ざわめきのように感嘆の声があがる。凛々しくも秀麗な一幅の絵のごとき姿であった。頬を染めて、秀幸の後ろに控えるようにしているのを、兼良が引っ張り出す。「これからは秀幸の家臣ではなく、縁戚になったのだからそのつもりでいるように。その為の、お披露目じゃ。」「大丈夫じゃ、おギギ。皆、美...

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挿絵描きました (〃ー〃)

此花、絵を描きました。本編に入れるはずだったのですが、間に合いませんでした。(´・ω・`) 二足のわらじは、難しいです。陽忍としてお役目を果たした場面です。び~ちく……(*ノ▽ノ)キャ~ッ←...

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露草の記・参(草陰の露)11

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やがて兼良と義元の親子は、城内ではあるが違う屋敷で暮らすようになった。どの道日々出仕するのだから、いっそこのまま本丸に居よと秀幸は手放したくなかったらしいが、他の方の手前もありまする、こういうことはけじめですからと義元はさえぎった。(若さま。それに義元は他の者に知られぬように、父上に武家の作法を習いとうございます。ですから、今しばらくはご容赦下さいませ……。)そう言われては、もうどうしようもなかった。...

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露草の記・参(草陰の露)12

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「朝露に 咲きすさびたる 鴨頭草(つきくさ)の 日暮るるなへに 消(け)ぬべく思ほゆ」鴨頭草(つきくさ)とは、月草とも書く露草のことである。 月草で染めた着物は、水で色が落ち易いことから、心変わりをたとえたりもする。この世のはかない命を表すのに、詠み込まれている歌もあったなと兼良は思い出していた。「義元殿。思うまいとしても、自然に思われる相手とは?恋しい相手は、私が良く知る近しい者かな?」兼良の手から...

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露草の記・参(草陰の露)13

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広間で藩主と婚約者に対面すべく、幼い姫と侍女が待っていた。「照姫。息災であったか?」「まあ、秀幸さまもお変わりなく。照は此度、父上からお祝いをお預かりして参上いたしました。元服の儀、真(まこと)におめでとうございます。」「うん。」「まあ……。」初めて会う義元の姿に、目が丸くなる。ふと見やれば、秀幸は義元の手を曳いたままだった。「……何と……お綺麗な方ですこと……。」その眼は、義元の手をしっかりと握った許嫁の...

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露草の記・参(草陰の露)14

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「このお詫びはどうすればよろしいでしょう。」しばらく考え込んでいた照姫は、ぱっと明るい顔をして義元の前に駆け寄った。「義元さま。良きことを思いつきました。義元さまには、照の持参した大切なお内裏様を差し上げます。」(……せっかくのお申し出なれど、……義元は、人形遊びはもう致しませぬよ。)笑みを浮かべてはいるものの、聞き取れないほど細い声で辞退する義元に、不思議そうな顔をして、くるりと振り返って問う様に秀...

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露草の記・参(草陰の露)15

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老女の指差す先には、鶯に良く似た草色の小鳥が一羽止まっていた。「ほら、あれに。」「まあ。どうしましょう。弥太があんな所に……。」天守の破風の先に、今にも飛んでいってしまいそうな照姫のめじろが居て、ちょんちょんと瓦の上を歩いている。「弥太、弥太。いい子だからこちらにいらっしゃい。」*****(……お女中。風切り羽は?)麗しい義元にいきなり耳元に囁かれて、侍女が腰を抜かしそうになった。「はい、はい。羽は切...

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露草の記・参(草陰の露)16

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(照姫さま。まっとうな武門は、軽業など……致しませぬ。)(そのようなことを分かっていて、失念した我が身が情けないのです。義元の行動が……わたしだけではなく、父上に恥をかかせることになって……しまいます。それを思うと、申し訳なく……。)とうとう堪えきれずに、義元の頬をつっと涙が転がり落ちた。「照は、義元さまがどんな出自でも構いませぬ。」「照の大切な秀幸さまのお命をお救い下さり、その上、大事な弥太を捕ってくれ...

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露草の記・参(草陰の露)17

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多少、早計であったかも知れぬと、父になった兼良も考えをめぐらせていた。勢いで養子にしてしまった義元の様子がおかしいと気が付いてはいたが、それほど深刻だとは思っていなかった。だが先日、天守の屋根でメジロを捕えるとき、トンボを切った姿を誰かが見ていて、「義元さまは、武士にあらず」と藩主に告げたようだ。さすがに元秀は取り合わなかったが、いつの世も目立つ杭は打たれるのかも知れぬ。「あれほど、懸命に生きてい...

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露草の記・参(草陰の露)18

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照姫は、この時代の女子にしては珍しく進歩的な両親のもとで育ち、自分の考えをしっかりと持っていた。そしてどんな相手にも、「ならぬものはならぬのです」と、臆せず口にもした。戦国の世の最後に生まれた照姫は、例えどれほど血統が良くても、知恵がなければ足利将軍のように家が絶えると分かっている。生き馬の目を抜くような乱世の小さな諍いは、照姫の実家、佐々井家近辺でも起こっていた。政治の道具として使われることの多...

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露草の記・参(草陰の露)19

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その頃、義元は上を下への大騒ぎの城を抜け出し、天然痘が流行る領内を馬で駆け回り、患者を訪ね歩いていた。秀幸の一大事に駈けつけもせず、何を思ってか見舞いと告げて、何がしかの金子を置く義元は、感染を恐れて家族も近寄らない患者に、直接粥を取らせ薬湯を飲ませて励ました。義元の細い声に耳元で励まされ、領民はむせんで感激した。(ここまで発疹が出てしまえば……もう大丈夫じゃ。命は助かる故、気を確かに持っての……。決...

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露草の記・参(草陰の露)20

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ニガクリタケの猛毒から秀幸を救った時も、義元の取った手段は正しかった。毒茸を口にした秀幸に大量の水を飲ませ胃の腑を洗浄した。いつか親しく寄り添うようになった秀幸との間に何が有ったか、義元は仔細を訪ねたことはなかったが、小草履取りとして側に仕えて以来、常に秀幸のためだけに生きてきたような義元を知っている。兼良は、必死の眼差しを受け止めた。「その施術で、秀幸は必ず助かるのか?」(……義元の命を賭しまして…...

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露草の記・参(草陰の露)21

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藩主は兼良から話を聞き、即断した。素性の不確かな義元を誰よりも信頼していたのは、案外、拾い主の双馬藩主、安名元秀であったかも知れぬ。秀幸に向ける、ひたすらの一途な思いに気付いていた。「兼良殿。義元の思うように、やらせてみよ。佐々井家には、わたしがすぐに文を書く。」「はっ。即刻。」*****「義元!殿のご裁可が下りた。思うようにしてみよ。」(ああ……良かった。ありがとうございます、父上。……直ぐに支度を...

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挿絵描きました (〃ー〃)

忍びでありながら、藩主の弟の養子となったおギギです。一生懸命、武士らしくしようと思いながら、大好きな秀幸の許嫁が飼っているメジロが逃げたのを捕えようとして、ついうっかりと天守の屋根の上を走ってしまいます。周囲がどれほど慰めても、涙が止まりません……という場面なのでした。肩幅が狭いのは、陽忍として特殊な訓練を積んできたためです。総髪にするため、前髪を伸ばしています。まだ中途半端で、全部アップにはできま...

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露草の記・参(草陰の露)22

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「……おギギ……か……。」(はい。若さま。)「……内から……身が燃えるようじゃ……。」(高い熱が有りますれば……。)(これより義元が、若さまをお助けいたします。)「うん……。いつも、おギギがわたしを助けるのだな。」(はい。義元は若さまの小草履取りなれば……。若さまのお役にたつのがお役目です。)着物を脱がせて、燃える上半身を抱き起こし、自分の肩に秀幸の頭を乗せた。すえた病人のにおいが鼻をつく。きつい焼酎を口に含み、霧...

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露草の記・参(草陰の露)23

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秀幸と同じように抱き取った照姫の身体は熱く、意識も朦朧と次第に薄れてゆく様子だった。「いや……いや、こんな……醜い顔は、照ではない……。」(照姫さま。しっかりなすって……。夢でございますよ。)「義元さま……いやじゃ……わたくしに、そのような美しい顔を近づけるなっ……。」「……秀幸……さまぁ、照をお帰しになってはいや……。」と、うわ言が聞こえた気がする。(お可哀想に……照姫さま、ご免……。)思い切って腕の付け根に刃物を突き立...

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露草の記・参(草陰の露)24

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義元は施術の後、願を掛け、堂に籠もった。護摩を焚き、殆ど飲まず食わずの状態でひたすら快癒の祈りを捧げ始めた。朝、昼、夕刻の決まった時間にだけ現れて、肌を粟立てながら経を唱え冷水を被る。人払いした井戸端で、黙々と水垢離を取る義元の様子に、さすがに秋津も声をかけた。「義元さま。そこまでしては、お身体が悲鳴をあげますぞ。殿も兼良さまも、ひどく心配しておいでじゃ。」(あ……。秋津さま。)白装束の義元が澄んだ...

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露草の記・参(草陰の露)25

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そして……。義元の命がけの切ない祈りは、神仏に確かに届いたのだ。*****一月余り堂に籠もり、日々、身を冷水で清めながら神仏に祈りを捧げた義元が、藩医の口から秀幸と照姫の病状の軽さを告げられたのは、とうとう見かねた兼良が止めさせようと、扉を蹴破り押し入ろうとした時だった。幽鬼のように目だけを光らせた義元が、静かに祈り続けていた。「義元……。秀幸と照姫は快癒じゃ。ほとんど痕も残っておらぬそうじゃ。」(ま...

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露草の記・参(草陰の露)26

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腕の中で安らかに眠る、時折まだ幼く見える横顔。それが兼良が見た、義元の最後の姿になった。*****翌日。秀幸の使いが伝言を持って居室を訪ねたとき、既に寝所に義元の姿はなかった。時間をかけて記した「植物図録」「薬草図録」などが数冊きちんと揃えられて、文机に残されているばかりだった。「義元……っ!どこじゃ!……義元っ!」「ものども。早う後を追え、義元を探せ。あの体では、そう遠くへは行けまい。」衰弱した義元の...

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露草の記・参(草陰の露)27

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天駈ける紅龍が姿を現し、双馬藩を恐ろしい天然痘の脅威から守ったと、近隣諸国まで噂は走った。実際、天が加護したと言われても不思議はないほど、他藩に比べ双馬藩では天然痘の犠牲者は少なかった。いち早く藩主の命で、藩医が義元の施術を習い覚え、町医者を呼び指南したせいで、百姓町民に至るまで同じように尊い命が救われた。義元を失った秀幸の気落ちは、傍目にも酷かったが、懸命に照姫が支え、一見落ち着いたかに見える。...

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