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Category: 漆喰の王国  1/1

青い小さな人魚 (漆喰の王国)1

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昔々。東の大国に、太守(スルタン)と呼ばれる王さまがいた頃のお話。漁師の網に捕えられた小さな青い人魚が、スルタン(太守)マハンメド王の住む国に供物として贈られて来た。捧げものは、まるで棺のように二重作りの分厚いガラスの箱に入れられ、外からは決して見えないように黒い布を掛けられている。運ばれて来た小さな青い人魚は網にこすられた柔肌の傷痕も痛々しく、殆ど息絶え絶えで力なく水槽に漂っていた。「なぜ、この...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 2

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侍女の話によると、隣国の精鋭部隊は、遠征に出たスルタンの留守を狙いすましたかのように攻め入り、後宮の女たちを連れ出したと言う。薄いヴェールをはぎ取られ肌を晒して震える女たちは、この中の誰が妃なのかと尋ねられても、一人として口を割らなかった。女官たちは皆、優しい王妃が好きだったし、いつか勇猛果敢な太守が遠征先から取って返し助けに来ると信じていた。苛立った部隊長は、次々に後宮の宝物を運び出すと、女たち...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 3

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スルタンは、青い小さな人魚を浅い水槽から抱き上げると、濡れるのも構わず自分が使う羽の入った褥にそっと下ろした。「これは、海鳥の羽根ですね?」と、懷かしむように人魚は羽枕に頬を寄せた。「わかるのか?」「はい。海鳥は海神の眷属ですから。」と人魚は答え、枕をぎゅっと抱きしめた。そして、懷かしむように昔語りをした。「海の真ん中には、大海原に鳥だけが住む島があったのです。人の住んでいない場所で鳥たちは、自由...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 4

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きらりと人魚の瞳は輝き、スルタンの耳元に小さな声で海の秘密を教えた。スルタンの哀しみに満ちた表情がやがて喜色を浮かべ、小さな青い人魚を抱きしめた。愛する者を失ったスルタンと囚われの小さな青い人魚は互いの空虚を埋めあった。最後のパズルの一片をはめ合うように。「あ……ああ……っ……。逆巻く波が、わたしを攫って(さらって)ゆく。ああっ……、このまま……放さないで。スルタン、マハンメド……。」「……くっ!全てを呑み込まれ...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 5

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そして何か月後、とうとう一人の側女が、念願の懐妊をした。誇らしげに着飾った側女がスルタンに告げたとき、マハンメド王は、やっと終えた役目に心底ほっと安堵した。後は、皇子が生まれればそのまま太守に、姫ならば婿を取らせばよかった。「おめでとうございます。スルタン。これで、この国の行方は安泰です。」「そなたが正式に妃に決まったな。身体を労わり丈夫な赤子を生んでくれ。この国の安穏のために。わたしは気分がすぐ...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 6

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国を統べる太守には、政治や経済を補佐する有能な宰相が付いていた。全てに秀でて頭の切れる明晰な男で、常に太守を影で支える怜悧な姿に、「スルタンの知恵刀」と人々は二つ名を付けた。人生の全てをスルタンに捧げ、幼い頃からすぐ傍で尽くしてきた。だが今は、宰相の見つめる先に、これまでの太守の姿はない。苛立つ宰相の目に、異形の者と閨で乳繰り合う、見る影もなくなったつまらぬ男が写った。「スルタン・マハンメド。魔性...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 7

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宰相の望み通り、白い巨象の大隊を率いる強健な美丈夫、東の大国の輝けるスルタンは、周囲の国々を次々に手中に入れてゆく。だが、宰相は一つだけ計算を誤った。マハンメドは、思いがけず心根の優しい男だった。正妃がかどわかされて敵国の捕虜となって以来、雄々しい覇気は消え、愛する者を心配し別れを嘆き悲しむ、ただのつまらぬ国主になってしまった。星明りに妻の姿絵(タペストリー)を眺め、月明りの湾の地平線に妃を乗せた船...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 8

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「あぁ―――……」とっさに悲鳴が外へ洩れないように、宰相は人魚に腰のサッシュ(布ベルト)で猿轡をした。逃れようと身を捩るのを押さえつけ、肌を覆った鱗が刃の侵入を拒み跳ね返そうとするのを、思うさまえぐり込んだ。苦痛に喘ぐ人魚がじたばたとのたうち、空中に綺羅と輝く半円の鱗が光を弾いて金の水しぶきのようにばらばらと散った。「うっ……ぅーっ……!」「人の世では、因果応報という。償ってもらおう。」*****スルタン...

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青い小さな人魚 (漆喰の王国) 9 【最終話】

スルタンとヤークートの蜜月は唐突に終わりを告げた。ひゅん!と、洋弓がうなり、大広間の天上から下がったシャンデリアを打ち抜いた。物音に気付いた王宮護衛の衛士がすぐに銅鑼を鳴らし、危険を伝えた。「敵襲―――っ!!」高窓から海辺を見やれば、砂浜には覆い尽くさんばかりの西の国旗がはためき、祝賀ムードで油断しきっていた兵士たちは、蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになっている。城郭には、すでに忍び込んだ兵士たちが、...

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