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Category: 約束(凛斗・遥かな約束)  1/3

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小説・約束

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<作品概要>廃屋に住まう、一人の少年。太平洋戦争当時、戦時下に隠れ住む彼の瞳は、青かった。死ぬより辛い生きる選択をしたのはなぜだったのか。どんなことがあっても「生きる」大切さを感じていただけたらと思っております。作品の都合上、多少のBL風味はありますが、前提ではありません。約束概要  約束1 約束2 約束3 約束4 約束5 約束6 約束7 約束8 約束9 約束10 約束11 約束12  約束13 約束14 約束15 約束1...

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小説・約束・1

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桟橋のそこかしこで、別れを惜しむ人の姿があった。時間は迫り、日本へと向かう民間人を乗せた帰国船が、人々を急かすように出航の汽笛を鳴らしている。重い雲は垂れ込めて、耐え切れずに漏らした低い嗚咽がどこからか聞こえてくる。「トマス・・・」「サヨコ・・・」別れを前に、どんなに抱き合っても名残は尽きなかった・・・二人の愛する国同士が、とうとう戦うことになってしまったのだ。国連総会の決議上で、日本が求めた満州...

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小説・約束・2

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誰も頼る者のいない米国で、親族の仲間に入ることさえ認めてもらえない妻を一人残して、軍隊に行くのはトマスには耐えられなかった。 特派員として出入りするうち、親しくなった日本大使館付きの医師、サトウだけが二人の善き理解者だった。 「君のいない南部の田舎で、サヨコを待たせるのは酷だよ、トマス。 君にもそれはわかっているんだろう?」 「スーパーマーケットで、彼女がひどい扱いをされたといって、君も怒っていただろ...

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小説・約束・3

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「とうさま。」足元で、子供が呼んだ。両親の切ない別れを、黙って眺めていたサヨコとトマスの最愛の子供、リン。聞き分けの良い、利口な子供だった。日本の女児の着物を着ている。かむろに揃えた艶のある黒髪は、母親に似ていた。肌理の細かい白い肌は、父に似たのか、母に似たのか・・・だがその瞳は、今は涙に濡れる深い海の底の色だ。「キモノ、かあさまとおそろいね、綺麗ね。」そう言って夕べ、この子ははしゃぎ、父親の膝の...

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小説・約束・4

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それが、3歳の息子と交わした最後の約束になった。「・・・とうさまっ!」浮いた包帯の下から、あふれ出た涙が筋を作る・・・伸ばした手は、父を求めて虚しく空を切り、子供の父を呼ぶ悲しげな声が、喧騒にかき消された。「あ~ん・・・」「あ~ん・・・とうさま・・・」船が桟橋から遠ざかって行く。再び、まみえる確証もないまま千切れるほど手を振って、トマスは愛する妻と子を友人に託した。両の手で、耳を覆っても愛しい子の...

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小説・約束・5

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ここに、野口雨情作詞の歌がある。一足先に、海を渡った人形達に降りかかった災難を知っていれば、誰もリンをはるか太平洋の向こうに連れて行こうとは思わなかったかもしれない・・・「青い眼の人形」青い眼をした お人形(にんぎょ)はアメリカ生まれの セルロイド日本の港へ ついたとき一杯(いっぱい)涙を うかべてた「わたしは言葉が わからない迷子(まいご)になったら なんとしょう」やさしい日本の 嬢(じょう)ち...

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小説・約束・6

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やっと追いついてきた田舎の友人に、佐藤君と呼ばれた少年は振り返った。「徒競争なら、負けないよ。」「僕、西東京で3位だったんだから。」屈託なく笑顔を向けた東京の少年は、この辺りの大地主の家に疎開してきていた。「東京もんのくせに、がいに走るの速いな、佐藤君。」絶対負けない自信を持って勝負を挑んだ勝次が、息を切らしていた。東京と違って今だ空襲のない四国の片田舎は、平和な別天地のようだった。越してきたばか...

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小説・約束・7

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良平の祖父は、明治天皇の近衛兵だったというのが自慢の、眼光鋭い大柄な男だった。祖父とはまるで似ていなかったが、良平からは父に似た血統のよさが感じられた。最初遠巻きに眺めていた小作人のせがれ達の中に、あっという間に馴染んだ良平の性格は、紛れもなく父譲りだった。無防備といえるほど天真爛漫で、誰とでもすぐに仲良くなってしまう。格好は浮いていたが、良平はすぐに自然に混じってしまった。田舎の子供等は、学校に...

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小説・約束・8

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「あれは、おまえと同じ気性だな。」祖父は、良平の父にいったそうだ。「わたしも、お父さん譲りの性格だとよく言われましたよ。」そういって笑顔を向けた父は、今度の任務で、遠い南の戦地で軍医として赴任することになっていた。いつも一週間もしないうちに慌しく軍に帰るのに、今度ばかりは少し長い休みを貰えたらしい。この短い期間に東京の個人病院を友人に譲り、妻子を疎開させる為二人を伴って四国の実家を訪れたのだ。母方...

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小説・約束・9

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父親の友人の多くが、出征前に酒を提げ会いに来ていたから、彼等が軍医として戦場へ向かうことを良平は知っていた。交わす言葉の端々に、残された者への思いを感じさせるのは酒のせいかもしれなかった。一度、父に聞いてみたことがある。「お医者様が、みんな戦争に行ってしまったら、病気の人はどうすれば良いのかな?」「早く大きくなって、病気の人が困らぬように戦争をやめましょうと言うかい?」「さっさと神風が吹いて、大勝...

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小説・約束・10

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田舎で友人になった勝次が、熱心に若旦那様にあって話がしてみたいと言うので、良平は父親のもとに連れてきた。同じ年の勝次は、頬を上気させて緊張していたが、一生懸命ずっと知りたかったことを質問していた。「日本で誰が一番えらいのか、知りたいんだって?」「はい。父ちゃんは、天皇陛下の次にえらいのは、佐藤の殿様だって言うんだ。」「えらいってどういうことなのか・・・。ずっと知りたかったけど、学校の先生は東条元帥...

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小説・約束・11

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頭をくしゃくしゃとされて、勝次は照れていた。小作の中でも身体が不自由なせいで、一番小さな田んぼしか預からせてもらえない父を、こんな風に言って貰ったのは初めてだったのかもしれない。勝次もお父さんのことが、大好きなんだ、きっと。良平は父が若いときに、大使館で仕事をしていたことが有ると父の友人に聞いたことがあった。米国人と付き合ったから、考え方が一風変わってるんだという者もいたが、いつしか話をするだけで...

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小説・約束・12

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列車に乗り込んで、窓際の席を確保すると重い背嚢を下ろして、ほっと一息ついた。先の見えない未来を思うと、気が重い。南方には、海外への渡航歴、留学経験のある人間を選んで、まるで隔離するように送った前線基地があった。日本とは天文学的な数字ほどかけ離れて優位に立つ、米国の国力を、耐乏生活を送る国民には知られてはならないという、軍の上層部の思惑が見え隠れする。周囲の様子から、おそらく自分は硫黄島に行くことに...

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小説・約束・13

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「なあ、良平は続木男爵って名前聞いたことある?」不意に、耳元で内緒話のように勝次がささやいた。「ううん、聞いたことない。」ますます、声を潜めて勝次がいう。「森の裏手に、大きな洋館があるだろ?あそこが続木男爵の別荘なんだけどさ、出るらしいよ。」勝次の言うには、続木男爵というのは、佐藤の殿様と同じくらいの分限者で貴族院議員も勤める名家らしかった。「で、何が出るの?」「・・・バカ!良平、声がでかいって。...

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小説・約束・14

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いつも以上に烏の行水の良平を、母親が見咎めた。「あら。ずいぶん早いこと。」「良平、お爺様にご挨拶していらっしゃい。」この子は、もう・・・といいながら、割烹着のすそで耳の辺りをぬぐってくれた。「小さな子供みたいに、ほら、こんなに泡つけて。」「ありがと。」二日に一度、お湯を立てて風呂を使った後は、孫とはいえ居候はきちんと挨拶に行くのが常だった。一番奥の当主の部屋の前で、声をかけた。「おじいさま。お風呂...

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小説・約束・15

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祖父は、目を細めた。「上の学校に行く気なら、本気で勉強するんだな。」「おまえの父親と同じ帝大なら、教授の知り合いも多いだろう。」父親の優秀なのは知っていたが、さすがに真面目に勉強していないので帝大に行きますとは言えなかった。良平は、ふと思いついて続木男爵という人を知っているかと聞いてみた。「そうだ、お爺様。この辺りには続木男爵という分限者がいるんですか?」言ってしまった後で、思わず良平は言わなけれ...

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小説・約束・16

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時間を気にした良平は、うっかりと自室に履物を持ってくるのを忘れていた。灯の消えた、お勝手口からそうっと忍び込むようにして、下駄を探した。別に裸足でも平気だったが、森にはヒルがたくさんいて吸い付くので、何か履いていたほうがいいと勝次がいうのだ。「良平、ロウソクとかある?」「仏間に入るのは、ちょっと無理だな・・・あ、大丈夫。停電したとき使ったでっかいのがあるよ。」秘密というのは、どうしてこうもわくわく...

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小説・約束・17

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辺りは、田舎ということもあって、街灯が少なくとても暗かった。ただ、月明かりに浮かぶ森の影は、夜目にはっきりとわかる。その付近に、ちらちらと小さな灯が瞬いているのは、どうやら勝次の言うとおりだった。「へぇ・・・」良平は、物怖じしない子供だった。狐狸妖怪の類は、恐怖心が作り出すものだと思っていたし、当時の少年雑誌の冒険譚がだい好きだった。彼等は南海の孤島で、怪人達と戦うのだ。一人、不安は有ったが興味の...

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小説・約束・18

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明日、勝次に自慢してやろうと思っていた。古い洋館に居るのは・・・居るのは・・・向こうむきに、顔を覆った白い包帯らしきものをゆっくりと解き始める。・・・動悸が早くなった。幽霊・・・?勝次の言葉が、耳元で聞こえる気がする。長い包帯を、側において眼を伏せたまま、今度はこちら向きに長いすに腰掛けた。目を瞑って、背もたれに斜めに身を預けたまま、眠ろうとしているのか・・・?そこにいるのは、市松人形よりも髪の長...

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小説・約束・19

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「あっ・・・!」二人同時に、驚きの声を上げた。「うわぁあああぁ・・・」良平は、後ずさって一目散に逃げようとしたが、扉が内側に倒れこんでしまって室内に転がりこんでしまった。「待って。」「待って。行かないで。」「殺さないで・・・待って。」良平に覆いかぶさるようにして、力なく両足を押さえ、行かせまいとする。・・・見上げたその瞳は、青かった。「は、放せっ!」思わず、手荒に払いのけてしまい、相手は勢いよく床...

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小説・約束・20

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熱のせいだろうか・・・余りに細い指が、床で小刻みに震えていた。「動ける?」緩慢に長襦袢の裾が、床を掃くように滑る・・・女物の着物を巻きつけてはいたが、女性ではなかった。先ほど、かけていた長いすに横たえるように休ませた。「あの、ごめん。扉、壊してしまった。」少し、笑ったように見えた。勝次が幽霊だといったのは、満更外れていないのかもしれない。硬く目を閉じて、白い顔をしてそこに横たわっているのは、人には...

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小説・約束・21

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目をきつく閉じたら、日本人形のようだ。だが、目を開けたら顔だけは日米開戦前に、パスポートを持ちはるばる船に乗ってやってきた、青い瞳の人形だった。各地の小中学校に寄付され、野口雨情の作詞で歌にもなった、青い目の人形は今はその存在をなかったことのように隠されていた。敵国のスパイ人形として竹槍で突かれたり、炎に投げ込まれたりして、セルロイドの人形は溶けたのだ。平和を愛する人の手によって、秘密裡に隠されて...

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小説・約束・22

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深夜、帰宅した時間が何時だったのか、良平にはわからない。帰り道は人の気配もない中、真っ暗な田舎道を駆けて帰って、時計を見やる間もなく窓から転げ込むように蒲団に入ったのだ。昨夜のことが夢ではない証拠に、手の甲に引っかき傷が残っていた。朝やたらに眠かったので、ずいぶん遅かったのかもしれないと思った。良平は何度も母親に揺り起こされて、やっと眼を開けた。目の前の母親の顔を見て、何故だか一瞬、夕べの青い眼を...

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小説・約束・23

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後は、ひたすら学校まで全速力で駆ける。・・・良平を待ちかねた者がいた。「おはよう!」待っていたのは勝次と同じ、小作の息子だったがその顔は不自然なほど蒼白だった。「良平。夕べ勝次の母ちゃんが死んだ。」「何で・・・!?」良平は、立ち尽くした。「・・・ぼく、勝次の家へ行ってくる・・・。」「一限目、教練だよ。まずいよ。」「佐藤は腹を下して帰りました!先生にそう言っておいて。」それだけ言って、一目散に駆けた。昨...

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小説・約束・24

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勝次は、父親と一緒に気丈にも弔問の客に頭を下げていた。葬式を手伝う隣組の念仏講は、殆ど佐藤の家で働いている農民だった。ふと、勝次がこちらを向いた。「良平。」「勝次・・・」わんわんと先に声を上げて泣いたのは良平の方で、少し遅れて勝次も堰を切ったように涙にくれた。わけのわからない勝次の小さな妹が、二人の背中を懸命にさすってくれた。「ぼく・・・知らなくて。ごめんね、勝次・・・」「・・・ぼくこそ、夕べの約束...

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小説・約束・25

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葬列について歩く、勝次の妹はいつか良平があげた、ぶかぶかのズックをうれしそうにはいていた。遺体を載せた荷車に寄りかかる、勝次の父の膝は戦争で弾を受けて流れていて、真っ直ぐには歩けない。それでも、日々懸命に働いてきた。妻と、愛しい子供達のために。重い足を引きずるように、遺体を焼く浜へと続く葬列の中ほどで、とうとう力なく座り込んでしまった。どんな身体になっても、帰ってきてくれたのがうれしいと泣いた妻は...

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小説・約束・26

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「・・・何か、言いたいことがあるようだな?」「別に有りません。」「小作の息子達の中に入ってお山の大将を気取るのも、やめるんだな。」「そろそろ君も、立場というものを理解するといい。」腹の中で、沸々と煮えたものが喉元までこみ上げてきた。お山の大将と名をつけるなら、自分じゃないか。用もないのに、検閲と名をつけて、駅前のパン屋からしょっちゅうパンを持って行くのを良平は知っていた。お国のために、父は大切な病...

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小説・約束・27

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まだ早い時間に、帰宅した良平の顔を最初に見たのは、民さんだった。「まあ・・・」と言ったきり、しばらく驚いていた風だったが、すぐに手当てを思いついたらしかった。「この場所じゃ、湿布をこしらえて張るわけにもいきませんねぇ。」そういって、手ぬぐいを冷たい水に浸してくれた。「喧嘩したんですか?」熱ましい頬に、冷たい手ぬぐいは気持ちよかった。「ううん。一発なぐられただけ。」「・・・何も、こんなになるまで酷くぶ...

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小説・約束・28

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民さんは、何だかうれしそうだった。「そうですか。坊ちゃんがこちらでお医者様になってくださったら、民も病気になっても安心ですね。」「うん。みんな、診るよ。だから、ぼくこれから死ぬほど勉強しなきゃな~・・・」「がんばってくださいね。応援しますから。」民さんは、お父さんの時もこんな風に応援したのだろうか。そこにあった握り飯の残りを貰って、軽く昼飯を済ませると良平は作業に向かった。のどかな田舎にも、住んでみ...

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小説・約束・29

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「責任者の方はいますか?」先ほどの青年将校が、お爺様を訪ねてきて密かに告げた。「今年は、豊作で予定以上の米を供出していただきました。わたしの一存で、これは軍用に持ち帰らず、こちらに飯米として置いておきます。これからますます軍局は厳しくなると思いますので、どうかそのつもりで備蓄してください。」「わたしは大学生で、兵役猶予期間として召集免除されていたのですが、国家の非常時ということで召集されました。」お...

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