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Category: 蜻蛉の記(江戸)  1/2

小説・蜻蛉(とんぼ)の記<作品概要>

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乳兄弟として、本当の兄弟のように育ってきた二人。側室の生まれながら、病弱な兄を助け家名を守り立てようと懸命な主、貴久と乳兄弟、大輔。思わぬ陰謀に巻き込まれ、不自由な身体になってしまった貴久。死に場所を求め、土一揆征伐に向かう。注目作品に選んでいただきました。主従物は、いつか書きたいと思っていました。ちょっと自己満足に走ってしまいましたが、個人的にはとても好きな作品です。お読みいただけたら、幸いです...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・1

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「まるで、子犬のようだこと・・・」側室お袖の方は、強い日差しを避けて室内から子供たちの様子を眺めていた。「ほんに。」頷く乳母と、お袖の方の視線の向こうに、子犬のようだと言われた同い年の幼い主従はいた。三里の国の小藩で生まれた、尾花家の次男、貴久(たかひさ)と乳母の息子、盛田大輔だった。共に、5歳の節句だった。「大輔、ご覧。」「これは、蜻蛉の柄だよ。」母親が揃いで作ってくれた新しい着物を、見せに来た貴久...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・2

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領主には本妻が有り、嫡男より三ヶ月前に生まれた貴久は、お家の事情で次男と言うことになっていた。本より病弱な公家生まれの奥方に、子は望めぬものとして選ばれた健康な側室、お袖には思慮も分別も有った。奥方様が、お産みになった吾子さまを、ご嫡男とされるのが寛容と言う家老の言に、「わたくしも、お家のためにはそれがよろしいと思う。」と微笑んで生まれたばかりの自分の子供にこういったのだ。「貴久。兄上お誕生ならば...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・3

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その話は、瞬く間に家臣の間に広まった。「殿は、内心跡目として貴久様をお考えではないのか。」「いずれ、お家騒動になるのならば、どちらにつくか今から身の処し方を考えておかねば。」本人の知らぬところで、話は大きくなっていた。誰がどう見ても、愚鈍にさえ見える長男よりも、資質は貴久の方が優れていた。お家騒動の火種を作ってはならぬと、お袖の方は急ぎ対面を申し出る。精一杯の心づくしの品を携え、お袖は下座にかしこ...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・4

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事切れる前、お袖の方は、息子貴久の乳母であったお福に言い含めた。「わたくしは、心の臓の病がおきました。」「後は・・・後は・・・」命の尽きようとする、女主人に「若様には、この福と大輔が付いております。」そう言うのがやっとだった。冷たい骸となって、お袖の方は屋敷に帰ってきた。蒼白の顔でお福が心の臓の病でと告げると、貴久は激昂した。「母上は、健康であったはず。何故だ、お福。」「何があった?」語らぬ乳母に、不...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・5

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「信貴殿の母御に、対面する。」貴久の凛とした声が、響いた。大輔は、城へお袖の方の供をした母親の、ただならぬ様子にすぐさま控えていた。「大輔、馬引け!登城する。」「はっ!」先日の藩主との対面以来、家臣の中でも力を持つものや藩御用達の商人などが元服の後見を願い出て、にわかに騒々しくなった屋敷内だった。平和な領内で、貴久の知らぬ火種は少しずつ育っていた。「貴久さま。急ぎ駕籠の準備を致します。」「大輔。」振...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・6

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「貴久さま!」大輔の絶叫が、闇に吸い込まれた。全速力で走っている疾風と貴久が闇に溶けた黒い紐に、気付くわけが無い。疾風がもんどりうって倒れ、貴久は投げ出された。疾風は、首の骨を折って即死したが、倒れる前に一瞬首を立てて主を守ろうとした。どうと崩れ落ちる疾風の背からころがり落ちた貴久は、したたかに腰を打ったようだった。「貴久さま!」「う・・・」微かに、呻く声が夜陰に響いた。まだ、息はある。「誰か!急...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・7

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「・・・わたくしがついていながら、かようなことに・・・」城へ行き、藩主に事の次第を説明した後、伏したまま大輔は泣きはらした顔を上げられなかった。重傷を負った貴久の元に駆け戻りたかったが、家老に呼ばれた。にわかの発作に急死した母親への思い耐え難く、若君は、錯乱したのであろうよ、無理はないと正妻は言い放った。乳母の息子、盛田大輔は、同道したものの、まだ元服前ということで何の罪咎に問われることも無かった...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・8

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「貴久様のご容態はいかがなのですか?」次の日、診察に当たった奥医師を尋ね、大輔は聞いた。できることは何でもしたいと思った。大輔の目前で落馬した貴久の、意識はまだ戻らない。出血が多く、意識が戻らなければ峠は今夜だろうと奥医師が言う。貴久の居なくなる明日が来ると、思えなかった。涙がこぼれないように、空を見上げた大輔の目に、大きな銀の月が写る。快活な貴久の笑顔が滲んで溶けた・・・。面会も赦されぬ、固く閉...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・9

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夜半、濡れ縁でうとうととしていた大輔は、衣擦れの音に、気が付いた。ぼんやりと行灯の灯が揺れるが、人影はない。いぶかしげにそっと、障子を開け大輔は中をうかがった。羽二重の蒲団を固く握りしめて、貴久が虚空をにらんでいた。大きく見開いた双眸から、静かに止めども無く溢れる涙。「貴久様。お気が付かれましたか。」ほっと安堵して、思わず声をかけた。「大輔か・・・」「そなたの、脇差を貸せ。」「脇差?何ゆえでござい...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・10

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それから程なくして、三里藩主は信貴を次期藩主に決めた。城代家老の報告に、貴久は夜具の上、眉一つ身じろぎも返答もしなかった。次期藩主の座を得て、信貴の母親が見舞いという名目で、勝ち誇った様子で屋敷に来た時、医師は止めたが貴久は何とか座椅子の力を借りて対面を果たした。「・・・このようなお見苦しい姿での対面となり、義母上様には申し訳ございませぬ。」想像以上に哀れな姿に、さすがの正室も言葉を失ったようだっ...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・11

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自害を恐れ、貴久の周囲からは全ての刃物が取り上げられた。屋敷内にあるのは、先代藩主が徳川家康公より拝領した一振りだけだった。寝間より離れた書院に置かれ、それ以上は何も起こるまいと安心していた。大輔は、毎夜、貴久の寝室の外にいる。無論、貴久も家中のものも知らなかった。ただ、一番辛いときに共に居たいと思った。蒲団に入るより、規則的な寝息が聞こえると、安心できた。・・・遠くで衣擦れの音がする・・・腕を動...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・12

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組み敷いた大輔の下で、若い主人は悲痛に呻いた。「このような身体で、生きて何になる。」「兄上の、・・・お家の荷物になりとうない・・・」泣き顔を見せまいと、貴久は大輔から目をそらした・・・数日の内に、自分の体のことを知り、病みつかれた貴久は、すっかり生きる気力を失くしていた。憔悴しきった頬はこけ、力強かった手首も簡単に大輔が掴めるほど細くなっていた。今は喉を突こうにも、力さえ入らない。そして、大輔は、...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・13

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「・・・ならぬ!」「そちを失っては、お福が悲しむではないか。」誰よりもまず誰かを思う、いつもの貴久の言葉だった。「それに、そちを供にしたとあっては、母上にわたしが叱られる。」「では貴久さま。」これ以上の苦しみを、与えてはならなかった。「これよりは貴久さまの身の回りのことは、すべて大輔がお世話仰せ付かります。」「よい。おまえはわたしよりも背が・・・」「御免。」大輔は慣れぬ手つきでさっさと夜具を敷き直...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・14

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「この、愚か者っ!」謹慎の解けたお福が、屋敷に来た時、熱のある大輔は濡らしただけの手ぬぐいを、そうっと眠る貴久の額に乗せようとしていた。無論、おびただしい滴で襟元も濡れていた。「あっ、母上。」叱られて取り落とし、主人の上に手桶の水もこぼしてしまった。「何と言う・・・この不器用さは何としたことやら。」「何をおっしゃいます。母上。」「わたくし、盛田大輔、尾花貴久さまの一の家臣となってございます。」「・...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・15

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いつしか、時は流れた。元々勉強家で聡明な貴久は、今は藩の財政を預かる勘定方で仕事を任されるようになっていた。子供の頃から、お家大事の時には、兄を守って先陣を切ると誓ってきた貴久だったが、徳川の世になり大戦はもう過去のことになっていた。不自由な身体ながら、港を整備するよう進言し、新田の開発を奨励し、三里藩は小藩ながら少しずつ石高も上がり豊かな藩になって行く。戦国武将の、上杉謙信公のようになりたいと貴...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・16

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だが、当の貴久は自分の身体が不自由になり、尾花家の荷物になったと恥じ入るばかり。大輔にはそこが大いに不満だった。「貴久さまは、もっとご自分を誇るべきです。」「藩の石高が上がったのだって、貴久さまのご尽力のたまものです。どんなに新田開発をが大変だったか・・」貴久は、すぐむきになる大輔を面白がっているようだった。身体はとうに貴久を軽々と、持ち上げられるほどに成長しても、中身は全ての世話を自分がすると涙...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・16

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三河の小藩、板倉家に、一揆討伐軍上使いが決まったと、三里藩にも情報はもたらされた。討伐の任を命ぜられたのは、御書院番頭という将軍親衛隊であった板倉家で、役目の割りに石高の低い三里藩のような小藩であった。九州の各大名は自尊心が高く、小藩の板倉を軽んじて統制が取れぬのではないかと幕臣の中には心配するものもいたが、時の将軍、家光は祖父の代からの側近で、幕政に携わった板倉を強く推挙したという。板倉重昌は藩...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・17

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「若輩ながら、わたくし、その任をお引き受けしとうございます。」どよめきが起こる中、大輔は今や軽々と貴久を抱いて、藩主の前に進み出た。両手を前について、かしこまった貴久はそのまま頭を下げた。「父上。先の関が原の戦の折には、西軍の大谷吉継という大名が、輿に乗って大層な働きをしたと聞いております。どうか、わたくしをお遣わし下さい。」「だが・・・」大谷吉継は、壮烈な戦死を遂げたのだ。それも負け戦とわかって...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・18

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「幕府のご重役方は、嫡男を出し惜しみして片輪者を送り出したと父上を笑ったりしないだろうか・・・」貴久には、それだけが心配だった。手柄を立てれば、それで万事全て上手く行くと大輔は相変わらず楽天的だった。旅立つ朝、信貴と母親が、貴久を呼んだ。大輔以外、人払いをしたその上で北の方は「貴久殿に、わびねばならぬことがある・・・」と、口にした。「義母上、過ぎたことならば、もう水に流したく存じます。」貴久は、そ...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・19

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長旅をものともせず、板倉軍に合流した貴久は、父からの書状を携えていた。感激の余り、板倉は咽んだ。九州の大名は誰も思い通りに働かず、そのくせ連敗の全ての責任を板倉重昌一人に押し付けて無能呼ばわりしていた。犠牲者は増え、悪しざまに罵るものもいた。初めて席に着いた軍議の席で、貴久は自分なりに一揆勢と闘う考えを披露した。見た目の華奢な美しい青年の、筋道だった論理に皆舌を巻くことになる。これまでの治水工事や...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・20

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しかし、板倉の我慢は数日しかもたなかった。「尾花殿・・・拙者は正月に、奇襲をかけようと思う。」まだ、堀は埋まっていなかった。今、攻め入るのは、先陣を切る軍勢が、頭上からの攻撃を受け続けることを意味していた。無理な攻撃は、犠牲を増やすだけだとわかっていて、板倉は膠着した幕府軍に喝を入れようとしていた。「しかし、板倉殿。」貴久は、もう一度止めようとしたが御書院番頭(将軍家親衛隊)の自尊心は、この地で既...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・21

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板倉重昌は、旗を押したて正面から突撃を開始した。少し考えればキリシタンに、正月など何の意味もなかったのに、昔ながらの古式にのっとった名乗りを上げて板倉は猪のように突進した。貴久も輿の上で奮戦したが、敵方の銃には未だたくさんの弾が残っていた。貴久の煌く金色の蜻蛉をめがけて、一斉に銃が火を噴いた。大輔は、輝く兜を狙い撃ちされ輿の上に崩れ落ちた貴久を、咄嗟に床几から降ろし背負って退却した。斬り合うならば...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・22

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強引な突撃をした板倉に向かって、将軍家光は猪武者が・・・とつぶやいたそうだが、板倉を派遣した自分を嘲笑ったものなのか、その真意はわからない。貴久の進言どおり堀は埋め立てられ、ほどなく激しい内乱は鎮圧された。戦死した尾花貴久の三里藩には、一揆軍鎮圧に武功ありとして、板倉亡き後に幕府軍の指揮を執った松平伊豆守の肝いりで、急きょ5千石が加増されることになった。知恵伊豆と言われた松平伊豆守が、まことあっぱ...

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小説・蜻蛉(とんぼ)の記・あとがき

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長らくお読みいただき、ありがとうございました。先に書きました「紅蓮の虹」は天草四郎の側から、この作品は討伐軍の側からみたものです。基本的に、作者の思い入れが強いほど、登場人物は酷い目に遭うようです。ご感想などいただけましたら、幸いです。ランキングに参加しております。励みになります、よろしくお願いします。         konohanasakuyaにほんブログ村...

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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・0

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作品概要悲しくも清廉な、貴久の心。葛藤の先に見えたものは、大輔の笑顔の先に有った。蜻蛉(とんぼ)の記の視点を変えたお話です。蜻蛉(とんぼ)の記を先にお読みいただければ、幸いです。※某所で注目作品に選んでいただきました。どうやら、作者は主人公を好きになればなるほど、酷い目にあわせてしまう、いじめっ子みたいです。何があってもどんなことが有っても「生きる」心を忘れない、ひたむきな強さと折れそうな心の逡巡が...

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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・1

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辺りはとっぷりと漆黒に包まれ、今何刻なのかもわからなかった・・・しんとした部屋の中、深く息をするのも骨が折れた。・・・わたしは、どうしたんだった・・・?...

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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・2

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ほんの数刻前、母上が冷たい骸になって城から帰ってきたのは確かだった。初めて聞かされた、心の臓の発作。わたしは叫んだ。健やかな母上が、心の臓の病などお持ちのはずがない。突然、乳母のお福に死因を告げられても、そんなことは到底信じられなかった。真実を話せと詰め寄っても、お福は何も語らず視線を合わせようともしない。だから、わたしは母上が最後に対面した義母上に会いに行くつもりで、夕暮れの迫る中、馬を駆った。...

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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・3

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足の先が、むず痒い。そっと手を伸ばそうとして、思わず歯を食いしばった。ほんの少し手を伸ばそうと思っただけなのに、ままならない・・・一瞬、心が暗いものに覆われた。足は・・・?わたしの、足は・・・?懸命に鈍い感覚を探った。・・・足は在る。ほんの少し、安堵の息を吐いた。気は急くが、身体は思うようにならず重石をかけられて、蒲団にはりつけにされたようだった。内心、感づいたことが有ったが否定したかった。渾身の...

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小説・蜻蛉の記(貴久の心)・4

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腰から下の感覚が、まるでないことに狼狽していた。誰かに縋りたかった。母上・・・母上はいずこに、おわす・・・?そうだ、母上はもうこの世にはいらっしゃらないのだ。自らの浅はかな行動が、我が身に降りかかっただけのことだ。運命をにらみつける自らの双眸に、涙が盛り上がった。長い間、はらはらと静かに涙は溢れ、蒲団に吸われていった。拳でぬぐうこともできず、運命を受け止めきれず幼子のように涙は止まらない・・・この...

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