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Category: おとうと  1/1

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おとうと

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降りしきる満開の桜の下、たたずむその人を花の精だと思った。*******************************当時小学生の最終学年だった澤田天音は、叔父と結婚したその人を初めて見たとき、あまりの儚さに驚いた。細くけぶる明るい髪を、静かにかき上げてこちらに視線を向けると静かに微笑んだ。なぜか悲しそうに・・・なぜか薄く涙を浮かべて・・・じっと、天音を見つめていた。魅入られるように、天音は視線...

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おとうと・2

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鴨川総合病院は、天音の叔父であり詩鶴の父である、澤田聡(さとし)の持ち物だった。医者でありながら最愛の妻を手遅れの胃がんで亡くした傷心の弟を助けるために、米国の大学病院で腕の良い外科医として経験を積んでいた天音の父、澤田悟(さとる)は帰国した。天音の母は気位の高い女性で、京都の病院へ来てからというものどこか神経質に落ち着かなかったように思う。いつもいらいらと不機嫌で、天音や周囲の者はまるで腫れ物に...

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おとうと・3

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天音が全てを知るには、まだしばらくの時を擁した。10歳の年の差はどうしようもなく、受験を控えた天音は詩鶴と過ごす時間が減ってゆくのを気にしていた。全国区の進学校、州灘高校でも常に上位の成績を保持する天音に周囲の期待は大きく、父親のように優秀な外科医師になる道を嘱望されていると感じていた。「今度もA判定なのね。あなたはお祖父様に似たのね。お母さん、鼻が高いわ。」気位の高い母は、天音が自分の理想通りに...

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おとうと・4

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天音が高校に入った年、詩鶴は小学生になった。本の好きな頭の良い子で、可哀想なほど聞き分けが良かったのも、誰も言ってくれない自分のことを薄々感じていたのかもしれない。伏し目がちに過ごす詩鶴だったが、母によく似た風貌は周囲を魅了し、ため息をつかせた。何処に居ても意識して気配を消すように目立たないようにしていた詩鶴の影は、薄く儚かった。表情も硬く、時折天音が声を掛ける時だけ、誰もが蕩ける微笑を浮かべる。...

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おとうと・5 【R-18】

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設定上、近親間の無理矢理行為があります。苦手な方はお読みになりませんように、お願いします。R-18です。家政婦の腕を振り切って、駆けあがったら詩鶴と誰かが、もみ合っているようだった。「ぃやーーーーーっ!」何かが割れる音と、倒れ込むような音がした。「詩鶴っ!どうしたんだ!」部屋には内側から鍵がかかっていて開かない。天音は胸騒ぎを感じ、がんがんと重いマホガニーの扉を叩き、内部で息をひそめる存在に怒鳴った。...

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おとうと・6

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何とかその場を繕って、天音は重い足を二階へと引きずりあげた。詩鶴が心配だった。だが、内心は複雑だった。詩鶴が弟・・・?どういうことだ。幼い頃から慈しみ、愛情に飢えた小さな存在を自分なりに護ってきたつもりだった。誰よりも愛おしいと思い、腕の中の詩鶴を他の誰にもやりたくはなかった。自分の大切な掌中の詩鶴が・・・実の弟?詩鶴が無条件に、自分を慕うのは本能が求めたただの「血」のつながりだったというのか?そ...

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おとうと・7

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背を向けたきり、詩鶴は何も言わなかった。一枚の木の葉になって、烈しい感情の奔流に押し流されたまま、じっと嵐が去るのを待っているようだった。詩鶴には、突然自分に降りかかった禍(わざわい)の意味すら分からなかった。暗闇の中、静かに溢れる涙が寝台に吸われて行った。**********************翌日、天音は自分の家族が住む離れの自室から、じっと詩鶴の住む母屋の様子を伺っていた。家政婦の佐々岡...

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おとうと・8

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詩津は誰かを不幸にしてまで、恋を全うしたくないのと、話を聞いてくれた弟、聡に涙ながらに告げた。父も祖父も外に何人も愛人を囲い、正月には妾の家にお年玉を届けるような家で育った兄弟には、詩津の涙は意外だった。「詩津さん。そんなに泣かないでください。」「わたし、悟さんに、一緒にいようって言われて本当にうれしかったの。」「でも、悟さんの愛は、わたしが貰ってはいけないモノなの。奥様がいらっしゃるのに、どうし...

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おとうと・9

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悟の行為に打ちのめされた詩津を、聡は懸命に支えた。「結婚してください。詩津さん。」「僕の育って来た環境は今更どうしようもないけど、優しいあなたが居てくれるだけで、僕はこの先ずっと幸せでいられます。」「新しい人生を、これから一緒に生きよう、詩津さん。」哀しげに微笑む詩津を、聡は時間をかけてやっと手に入れた。「僕が幸せになるために、あなたが必要なんです。詩津さん。」「だから・・・どこへもいかないでくだ...

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おとうと・10

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その後、兄は多くの大学を受験し、海外の大学へと進学することを望んだ。広い世界で、自分の腕を試したいと思ったのも事実だった。誰もが知る有名大学で、腕を磨き名を上げていずれは帰国するつもりだと悟は宣言し、実際そうなった。翌年、弟、聡も国内で有名大学への入学を果たし、両親は大いに喜んだ。*******時が流れ、兄は在学中に、大学教授のすすめるままに気高い伴侶を持つ。打算で結婚したとはいえ、すぐに長男の天...

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おとうと・11

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二日目になって、やっと詩鶴の部屋の雨戸があいた。眩しそうに外を眺めた詩鶴が、ふと視線を廻らせた時、階下の天音と視線が絡んだ。何もなかったかのように、詩鶴が微笑んで寄越そうとしたが叶わず、顔が歪んだ。さっとカーテンが引かれた窓から、全力で拒絶する詩鶴の意思を見た。もう二度と、天音が優しい兄となり詩鶴の頬に触れることはない。天音の背に有った、心優しい天使の羽根はいつしか墨色に染まって堕天使の物になって...

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おとうと・12

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詩津が亡くなってから、休みなく働いてきた聡だった。傍で働く婦長が、休暇を取るように何度も声を掛けたが、聡はそうしなかった。病院での仕事は多忙を極めていた。医師の確保に苦労しているのはどこの病院も同じで、結局院長である詩鶴の父が、度々、穴を埋めることになっていた。哀しみを忘れるように、仕事に没頭する医院長を思いやりながらも、結局誰も詩鶴の事には触れなかった。忘れ形見は、ひっそりと大きくなり誰もが知る...

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おとうと・13

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無視しようと思ったが、何度も何度も執拗に扉は叩かれた。天音が詩鶴を追う父の姿に、気が付いたのは偶然だった。帰省中の天音は、詩鶴に知られぬように、精いっぱい父と詩鶴の接触を阻止しようとしていた。家政婦佐々岡には、ひそかにセキュリティ会社への登録条件を変更し、夜以降は身内であっても誰も本家への出入りができないようにしろと伝えた。勿論、全てを知る佐々岡は内心胸を痛めていて、天音の指示にどこかほっとしたよ...

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おとうと・14

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詩鶴はボタンの飛んだ制服の前をかき合わせて、自宅に帰ってきた。乱れた衣類に気付いた佐々岡が、なんでもない振りをして声を掛ける。「詩鶴さん。それ、テーブルの上に置いておいてください。洗濯してしまいますから。」「あの・・・今日、ボタン取れてしまって・・・」「男の子って、詩鶴さんみたいに大人しい子でもやんちゃするんですね。怪我はないですか?」ほんの少し安心して、目を見交わした。「うん。平気…お仕事増やし...

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おとうと・15 【最終話】と【あとがき】

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それから詩鶴は、長い時間雨の中を彷徨った。そして迷走の果てに、明け方近く、ポケットの中の祖母の住所に気が付いたのだ。それは、すべて天音の思惑通りだった。祖母は詩鶴が、今は亡き娘と瓜二つなのと、近々あなたの孫がお伺いすることになるという、匿名の電話がかかって来た通りになったのを驚いていた。裸足の孫を家に上げると、心づくしの食事を用意し、温かい風呂を沸かした。冷え切った詩鶴は、祖母の家にやっと自分の居...

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