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Category: (平安)青い海の底の浄土  1/1

青い海の底の浄土<作品概要>

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「ずっと君を待っていた」のオロチが、少し力を取り戻して海神だった頃の話です。壇ノ浦に儚く散った安徳天皇は、齢僅か八歳の幼帝で、実はオロチの生まれ変わりと言われています。そういう伝説、伝承が残っていて、妄想が広がって一本のお話になりました。幼帝は、人形に「天児(あまがつ)」と名前をつけ、大切にしていました。幼帝の姿は仮の物で、実は海の宮の龍王は深い海に身を投げて、すべてを思い出します。武士を捨てた兄...

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青い海の底の浄土・1

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雅な人々が群れとなり、肩を寄せ合う船べりに、敵船の作る白い波頭が襲い来る。一族郎党、平家のものはそろって都からはるばる落ちてきたが、とうとう都人は進退窮まって、皆、決済の覚悟を決めていた。守りを固める周囲の船が次々と敵の手に落ち、轟々と荒武者の名乗りが聞こえてくる。此処でつかまっては、どんな辱めを受けるかもしれないと、女達は薄物を深く被ってうつむき、行く末を思ってかたかたと怯えていた。蛮勇とどろく...

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青い海の底の浄土・2

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国中を騒がせた治承・寿永の乱も、この地の戦でようよう終わり、もう兵として借り出されることもないのだと、人々はやっと安堵のため息をついた。農民は田畑へ、猟師は山へ、漁師は海原へと生活の糧を求め、再びもとの生活を送ることができる。どこもかも荒れ果てていた。人々にとっては、源氏も平氏も関係ない。ただひたすらの戦の無い平穏こそが、ささやかな望みであった。たぷたぷと寄せては引く、滑らかな海面。兄弟は、日々の...

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青い海の底の浄土・3

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「お上とは、誰であろう?」兄弟は顔を見交わし、密かに見守った。「おそらくは、我らとは反目する、平氏の抱く天皇さま、もしくは上皇さまあたりであろうよ。」「お側近くに仕えていた者に、間違いは有るまい。」「寵童かもしれぬな。」僧に報告し、検非違使所(役所、警察のようなもの)に知らせるべきかどうか、兄弟は思案に暮れた。「ともかく早く、気が確かになると良いのだが・・・」白い顔でとろとろと眠りについたまま、濡れ...

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青い海の底の浄土・4

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弟は、拾った貴人に乞われるまま、あれから何日も美童の側に付き添い、腑抜け同然になってしまった兄を憂いていた。あの健康で働き者だった兄が、どうしたものか。飲まず食わずの童子に夢中になり、褥に臥した童の面倒を見る兄は、目の下に濃い隈をつくり、どんどんやつれて行くばかりだった。相変わらず、ぼんやりと「主上・・・」と口にしては、兄に縋るばかりの童子であった。「兄者。この有様は何としたことだ。」「ええい、こ...

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青い海の底の浄土・5

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凪の海面にそっと折り畳んだ書を置くと、水に浮くことなく片端から誰かが引き寄せたようにぱらぱらと広がり、長い紙が真っ直ぐに深い海中へと飲まれてゆく。「申し!お聞き届けくださいませ。」「竜神様の、お忘れ物でございます!」「お預かりしてございます!」弟は、深い夜の群青の海底に向かって、水底の宮の住人に届けとばかり叫んだ。弟は、ただ元の兄を返して欲しい一心だった。上ってきた気泡が俄かにどっと増えて、船を動...

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青い海の底の浄土・6

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童の遊ぶ色鮮やかな糸手毬が、ころころと足元に転がってくる。「ここじゃ、ここじゃ。この家じゃ。」「報せの文を、ありがたくいただいた。」「龍王様。確かに、あなた様のお大切な、天児がここにおわします。」「あれ、そこに。」数人の似た拵えの童が歌うように、はやし立てた。弟はそびえるように巨大な龍王の異形の姿に畏れて声をなくし、その場にひれ伏してしまっていた。兄の方はと言えば、居住まいを正すと悪びれる事無く臣...

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青い海の底の浄土・7

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「ともかく、それで腑に落ちた。」美しい公達が、視線を向けた。すうっ・・・と、目が優しく細くなる。「おこと等が現世の不浄の欲を捨ててこれまで居ったから、これが間違えて惹かれ流れ着いたのだろう。醜い心根の元では、天児は人型にはなれぬ。大抵の者には、この姿を見せることはないのだが・・・」「この、天児(あまがつ)は、わたしが人間であった時に作られた厄落としの形代(かたしろ)で、わたしの代わりに災厄を引き受...

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青い海の底の浄土・8

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何やらとんでもないものと関わったようで、弟の背筋をつめたいものが流れていた。決して、人が触れてはならない、戦慄の禁忌の話を聞いている気がする。龍神の語る昔語りは、まるで昨日のような口ぶりで、どこか御伽草子の一説のようだ。「古代に神通力を失ってから、やっとこの時代にこうして力を得た。我は、小さな子蛇にまで身をやつし、気が遠くなるほど転生を繰り返してきたのだ。」弟が、ふと周囲を見渡せば、自分の住むあば...

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青い海の底の浄土・9

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「この天児は、主上の御着物の端切れを頂戴して、わたくしが作らせたのです。」「大層お気に入り、わたくしの天児とお呼びになり、いつしか天児も恋うるようになったのでありましょうか。」弟は、気が気ではなかった。何しろ、いつしかあばら家が海の底にあるようで、このまま家ごとここに留め置かれてはたまらない。そっと、兄の袖を引っ張ると暇乞いをしようと告げた。「明日の漁の支度もありますれば、そろそろお暇しようと存じ奉...

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青い海の底の浄土・10

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どこからが夢で、どこからが現実だったのかわからぬまま、じりじりと陽に照り付けられてやっと船底から頭を起こした弟は、ふらふらと全てを話そうと僧の下へと向かった。古い庵で誰かが琵琶を奏でている。「先帝御入水・・・去程に阿波の民部重能は、嫡子伝内左衛門教能を生け捕りにせられて叶はじとおもひけん・・・甲を脱ぎ弓の弦をはづいて降人こそ也にけれ・・・」物悲しい楽曲の響きは、儚く散った幼い帝の魂を慰めるものだろ...

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青い海の底の浄土・11

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「もう一度、聞く。」「おことは、確かに這子(ほうこ)と言うのじゃな・・・?」「はい。海の宮の這子が、弟君の元に参り末永く睦むようにと、龍神さまに言われてはるばるまかり越しました。」弟は、まじまじと海の宮から来たと言う、女性を眺めた。「尾は?おことの魚の尾は、いかがした?」艶然と身が震えるような、怪しい笑みを浮かべると這子は、弟の嫁御になるために参ったのだと打ち明ける。「這子は、身も心もこのように、龍...

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青い海の底の浄土・12

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龍王に贈られた伴侶は、見目良いばかりではなく、大層な働き者で、弟はふと海の底の一夜の出来事を忘れそうになる事がある。静かに時は流れ、子宝にも恵まれた弟は、今も変わりなく美しい妻の寝姿に、海の宮の時間の流れと人の世の流れが違う事を、ふと思い出すのだ。自分がこの世に生ある限り、這子はずっと側に共に居て海の潮で焼けた腕を求めてくれるだろう。なんという天恵か・・・と、腹の中でごちた。いつしか白髪の混じった...

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