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Category: ずっと君を待っていた  1/2

ずっと君を待っていた・作品概要

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遠い遠い昔。海神の息子は遠い昔、ヤマタノオロチと名乗り、人の世で乱棒狼藉を働いていた。豊穣の女神・クシナダヒメに向けられた唯一つの恋は、クシナダヒメへの両親への挨拶の日にスサノオによって奪われ、儚い泡沫と消えた。深い想いを失った、ヤマタノオロチはいつか転生し思いを遂げる日を待つことにする。いつかと誓った長い長い月日の果てに、やっとクシナダヒメが転生の時を迎え再会の日が訪れた。ただ、生まれ落ちたクシ...

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ずっと 君を待っていた・1

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物心もつかないうんとちびのころから、何故だかぼくは「長いもの」が大嫌いだった。嫌いと言うよりも、殆ど畏れ(おそれ)に近かったかもしれない。どれだけ嫌いかというと、幼稚園の遠足で行った動物園の爬虫類展示室の前で、ストレス性の過呼吸で倒れたこともある。薄れ行く意識を手放す寸前に覚えている風景は、引率の先生が、ぼくを抱えて名前を叫びながら、ひたすらおろおろしていた姿だった。稲田久志(イナダヒサシ)。それが...

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ずっと 君を待っていた・2

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幼馴染で従兄弟の須田青児は、いつもそんなぼくを見て、笑っている。同い年だけど兄貴みたいな青児のことは、昔から「青ちゃん」って呼んでる。「クシちゃんは、何でこんなものが、いっつも怖いんだろうねぇ。」「ほれ、ほれ。」あのぉ・・・縄跳び用の縄を、ぶんぶん振り回すの止めて下さい。そこは、自分でもわからないけど、いまやぼくは蒼白です。どこか身体の内側の深いところで、誰かが囁いている。「まだ、それに近付いては...

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ずっと 君を待っていた・3

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温かくなると、蛇が冬眠から覚めて石垣の隙間や、朽木のうろからぞろぞろ出てくるんだ。しかも、登下校、毎日必ず出くわすんだ。「あぁ、クシちゃん、この季節は大変だねぇ。」「今日も、お出迎えの皆様大勢いらっしゃってる。」青ちゃんは分かっていて、ため息混じりに、そんなことを言う。学校から自宅まで、自転車で20分の間に、数えて27匹の蛇に遭遇した日には、さすがにこれは少しはおかしいと思ったらしい。数える方も、数...

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ずっと 君を待っていた・4

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「長いもの」嫌いの原因の一端について、ぼくがとうとう知ったのは、一週間後が16歳の誕生日という日だった。親父が、いきなり俺に向かって深々と頭を下げた。「頼む。何も言わずに、本家の祭礼に出席してくれ。」「わゎっ・・・何?親父、改まって、どうしたの?」頼まれなくても、本家の祭礼があるのはちょうど春休み中だし、遊びがてら行く気でいた。「すまん、しかも言おうと思ってこれまで言えなかったことがある。」何時になく...

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ずっと 君を待っていた・5

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今更だけど、本家はかなり古い家らしい。今回は、大事な節目の祭礼だとかで、先祖供養もかねて神楽舞などの神事が、豪勢に行われるのだそうだ。山陰の方に、本家は在るらしいのだけど、ぼくの家は事情があって大昔にこの地に流れてきたらしい。その大人の「事情」辺りは、誰も教えてくれないんだけどね。青ちゃんの家も親戚だから、末席に位置するのだという。一緒にいくと聞いて、そこはちょっと心強かった。だってさ、ど田舎なん...

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ずっと 君を待っていた・6

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一人でぼけたり突っ込んだりしても、動転しているのか思考回路がまともに働かない。「だ~~っ!わけわかんねぇ。」ぼくが、仮に巫女さんになるなら、このパンツの中にある可愛らしいものはどうすればいいですか?お母さん。ぼくは生まれたときから男の子のはずですけど?さっき、トイレに行ったときも使いましたけど?ぼくの分身は、困ってしまってサバンナで不安げに縮こまっていた。「まあ、まあ、クシちゃん。落ち着きなって。」頭...

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ずっと 君を待っていた・7

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青ちゃんは、意味不明なことをわめきながら転がるぼくに、何だか呆れたように苦笑していた。「そうだ、青ちゃ~ん、人身御供の役、代わってくんないかな?」「痛いの嫌いだよぉ~~!」「いくら何でも、誰もそんなことはしないって。落ち着けって。」くそぉ・・・タメのくせに頭を撫でるな。「代わってやりたいけど、こればかりは無理なんだよ・・・」・・・何で、そんな分かりきった大人みたいなものの言い方するんだよ。はっきりし...

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ずっと 君を待っていた・8

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緋袴の女性が何人か出てきて、まるで老舗旅館の仲居さんのように、案内をしてくれた。「お荷物は、これだけですか?」一日だけの滞在に、何がいるんだ・・・?「・・・そうですけど?」思惑ありげにぼくを見て、含み笑いをした女性の微笑が何だか怖い。青ざめたその頬に、きっとこの人達は体温低いんだろうな・・・と、ふと思った。胸に確信が沸いた。絶対、初対面じゃない気がする・・・どこで、会ったんだった?「このお部屋で、...

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ずっと 君を待っていた・9

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静々と、案内してくれた女性が恭しく桐箱を持って来た。その中から古そうな巻物が取り出されると、床の間に飾り翡翠の風鎮をぶらさげた。いつの時代の物かよくわからないけれど、ほら、奈良時代の・・・飛鳥美人とか教科書に載っていた気がする。あれって、・・・吉祥天女だっけ?冠を付けて、指先まで隠れる長い袖の着物を着た、長い髪の女性の絵が載っている。しかも、不思議と、どこか懐かしかったりするんだよ。読めないくらい...

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ずっと君を待っていた・10

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身体を清めた後、本家の御当主登場、めでたく御対面という運びらしいんだけど。内心、ちょっぴりむかむかしてた。旅の疲れを、落としてくださいって言うなら分かるけど、この時代に風呂に入って、身体浄めなきゃ会えない御当主って、一体どんなんだよ。使用人でこの態度だったら、その主人なんて、きっとどこかの王さまみたく、えらそうなのに違いない。いや、古風だからお殿さまかな。「ものども、苦しゅうない。佳きに、計らえ。...

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ずっと君を待っていた・11

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「海鎚本家当主に向かって、分家のせがれが大そうな挨拶だな。」「・・・すみません・・・」ぐっしょりとびしょぬれにしてしまった手前、そう言うしかなく神妙に頭を下げた。「え・・・と。はじめまして・・・?」そういいながら、ぼくは御当主の観察をした。大蛇に見えたので、思わず叫びましたなんて、言えるわけもなく・・・どうすんの、俺~(・・・ふるっ!)「湯船に半分沈んでいたから、溺れたのかと思ったが大丈夫そうだな...

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ずっと君を待っていた・12

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それから、とぷんともう一度薬湯の湯船に戻って、ぼくはあったまっていた。「もう一度、肩までちゃんと入りなさい。。」御当主が優しい声でそういうから。思わぬ、いい人みたいじゃん・・・?散々心配して、どこか損した気分だった。「後で、飯でも食いながら、ゆっくり話をしよう。」薄く微笑んで、若いご当主は風呂場から立ち去った。水も滴るいい男ですね・・・なんて、冗談は言いません、さすがにね。外で、何やらさっきの女の...

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ずっと君を待っていた・13

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怖くて、思わず手を伸ばした。「いやだ、青ちゃん、助けて。」そう言おうとしたけど、口から零れ出た言葉は違っていた。「スサノオさま。ご無事に転生あそばして。お懐かしゅうございます。」「うん。やっと会えたな、クシナダ。」青ちゃん・・・何、言ってるの?ねぇ、今のは、誰に言ったの?深い深い水の底に、沈められてゆくぼくの意識・・光るその建物は、何・・・?水底に、ゆらゆらとさんざめく美しい夢の中の錦の王宮。この...

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ずっと君を待っていた・14

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珊瑚の桃の花の咲き乱れる木の下で、身体を預け、うっとりと恋人の顔を見上げた。凛々しい男の薄い唇が、そっと触れるために降りてくる・・・「うわ~~~!!無理~~!」飛び起きたぼくは、周囲の暗さと全身を流れる冷や汗に、意外な夢オチに胸をなでおろした。「ゆ・・・夢かよ~・・・心臓に悪いぜ、まったく。」「よりによって、何て夢みてんだよ~・・・。まったく、早いとこ、神楽だかなんだか済ませてさ・・・っ!こんなん...

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ずっと君を待っていた・15

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小さく耳元で、青ちゃんが俺の名を呼ぶのが聞こえる。今度こそ、現実世界なんだろうか?「・・・クシちゃん・・・クシちゃん、大丈夫?」「だいじょうぶじゃないっ。」「どこもかしこも、大丈夫じゃない。」目を開ける勇気がなかった。もう、青ちゃんも誰も信じられない。ここへぼくを連れて来た、親父もお袋も信じない。あの、巨大な燃える目を見てしまった恐怖は大きかった。「みんなのばかっ。知らないっ!」「もう、誰も信用し...

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ずっと君を待っていた・16

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御当主が部屋を出て行ったのを、しっかりと確かめて、ぼくは青ちゃんに詰め寄った。「わけ、わかんない~っ!!!!」「日本語が、わかんない~っ!!!!」地団太を踏む俺を、青ちゃんは、すっかり困り果てたという態で、横を向いて小さくため息をついた。「ごめんね、クシちゃん。」「でも、これはうんと昔から・・・この世界が出来て間もない頃からの決め事だから、仕方のないことなんだよ。」「魂が二つに別れてしまったから、...

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ずっと君を待っていた・17

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アシナヅチ、テナヅチと言う老夫婦が居て、ヤマタノオロチと言う恐ろしい大蛇が娘をよこせと言うのが悲しいとしくしく泣いている。8人の娘を全て、毎年生贄に捧げ、もう最後の娘になってしまったと、老いた両親は嘆いていた。そこを通りかかったスサノオは、その最後の綺麗な娘を嫁にくれるのなら、自分が大蛇を退治してやろうと名乗りを上げる。自分は、神々の一人だから大丈夫だ、まかせておけというスサノオに、娘の命が助かる...

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ずっと君を待っていた・18

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風呂上り、着せてもらった着物に焚き染めたお香の匂いをかいだ途端に、ぼくは一瞬、普段見えない双子の片割れを見たのを思い出したのだ。「ねぇ、おねえさん。」ぼくに着物を着せてくれた見知った顔を見つけて、滞在中貰った自室に引っ張り込んだ。「ね。こっち来て、ちょっと教えてよ。」「おねえさんは、ぼくのことどこまで知ってるの?」一瞬、視線を迷わせたところを見ると、何と言うべきか言葉に躊躇したのだろう。何かを知っ...

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ずっと君を待っていた・19

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お姉さんは、嬉々として俄然、口が軽くなった。「とうとう、クシナダヒメさまの血流、稲田家とヤマタノオロチの血流、海鎚家の御婚姻が叶うのですね。」「まことに、おめでとうございます。」「あ・・・、はい。」もう、いいよ。解ってしまった。親父が頭を下げた、人身御供と言う意味。ぼくがぼくでなくなるという、本当の意味。孤立無援、と言う言葉くらいいくら物を知らないぼくでも知っている。もう1つ、こんなときに使うのは...

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ずっと君を待っていた・20

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諦めて周囲を眺めれば、見渡す限りの低い野山と、斜めに薄い雲が流れるどこまでも青い空が広がっていた。肺に染み込むように、美しく透明に澄んだ空気が、現代と時代が違うのだと俺に告げる。目には見えないけれど、今ぼくがいる場所とは、空気の色さえも違う気がする、そんな感じ。俺はきっと、今映画のフィルムに焼かれていない観客だ。こちらから見えるけど、向こうの住人には見えていない、きっと。広がる稲田は、黄金に色づき...

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ずっと君を待っていた・21

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龍神の誓いを聞き、高天原の天照大明神(アマテラス)も、若い二人の誓いを聞き、天から祝福の七色の光芒を放った。天かける虹の下でオロチは誓った。「大風を起こし、山を崩し田畑を荒らすような、愚かな真似は二度とせぬ。我はこの後、人の世に慈愛を注ぐと約束する。」クシナダヒメは、龍神の光る目に嘘はないと本心から悟った。「幾久しく、共に穏やかな常世を見届けられますように。」「そなたの父母のアシナヅチ、テナヅチに...

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ずっと君を待っていた・22

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「お前達の娘がいい交わした、オロチと言う男は、長く生きたために霊力を持った大蛇の化け物だ。」「ば、ばけもの・・・っ!?な、なんと・・・っ!」腰を抜かしそうに驚いたのは、母親のテナヅチだった。「そのような・・・!オロチは優しい若者で、何日も懸命に農作業を手伝ってくれるような男です。」欲しいものを手に入れるためなら、誰だって嘘の一つや二つは即座につくだろうと、スサノオは言葉巧みに婚礼間近の娘の母親を煽っ...

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ずっと君を待っていた・23

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「結婚の約定を取り付けた後、喜んで酒を飲み油断した所を私が討つ。」出来るだけ・・・と、スサノオは声を潜めた。「沢山の馳走を並べ、歓待してやるが良い。」にやりと、狡猾に口角が上がった。「油断させて、切り刻むのだ。」「生命力の強い大蛇が、二度と再生できぬように微塵にな。」スサノオの描いた策にまんまと騙されて、父母は娘にも秘密で八つの山々のふもとに八つの門を立て、酒の甕を置く。強い酒(八塩折之酒)を用意...

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ずっと君を待っていた・24

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オロチの白い顔に朱が走った頃、テナヅチはスサノオとの打ち合わせ通り告げた。「オロチさまは、仮の姿をお解きにはなりませぬのか?」酒に酔った大蛇の目が、どろりと潤む。「何故、そのようなことを?」「お名前の「お」は峰、「ち」は霊力を現すものと、存じております。わたくしどもも、神々の末席に位置するものですから。」「そうであった・・・か・・・ぐっ!」密かに毒の盛られた食事を食し、オロチの持った箸が、ぽろと落...

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ずっと君を待っていた・25

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毒に苦しむオロチの八つの首は、それぞれに水を求め大地を走り、ついに八つの山々のふもとに酒の入った甕を見つけた。渇いた喉を潤すように、ごくり、ごくりと喉を鳴らしオロチは強い酒を飲んだ。それが身体に回り、動きを鈍くさせることなど考えもせず、渇きを癒すために今はひたすらあおった。毒のせいで起きた喉の激しい渇きが、大量の水分を欲していた。怒りと悲しみの咆哮が大地に轟き、天は掻き曇り心配した龍神は雨を降らせ...

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ずっと君を待っていた・26

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絶え絶えの苦しい息の下から何とかそう告げると、オロチは宝玉に祈りを込め鏡に変えるとスサノオに知られぬように、クシナダヒメの袖口に滑り込ませた。『我は・・・我は、そなたのものだ・・・永久に・・・』「最後まで、何を血迷っているのだ。往生際の悪い蛇の出来損ないめが!」「転生など、決して許さぬ!」刃が直も倒れたオロチの肌を裂き、増えた傷からどっと血飛沫が散った。「観念して、疾くと死ね。クシナダヒメは、俺の妻...

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ずっと君を待っていた・27

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小さな鎌首を持ち上げて、ただの白い子蛇は嘆くクシナダヒメを見つめていた。名残惜しそうにしていたが、傷だらけの子蛇はやがてちろちろと先の割れた舌で、クシナダヒメの頬に触れると石垣の隙間に消えた。それが、今生でのやるせない最後の別れになった。眼が溶けるほど泣き崩れたクシナダヒメは、やがて涙を拭き神々の住む高天原からの祝福を受ける。大地を統べる女神として、クシナダヒメはこのまま泣き暮らして地上の稲穂を枯...

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ずっと君を待っていた・28

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怖いよりも、もっと深くて悲しい思いを知ってしまったから、俺は泣きすぎてがんがんと痛くなった頭で考えた。もしかすると、普段使わない頭でいっぱい考えたから、頭が痛くなったのかもしれないけど・・・今は、そんなことどうでも良かった。さっき見た映像は、きっとオロチが渡した鏡に閉じ込められていた信実だ。一撃でスサノオの頭を打ち砕く機会があったのに、結局オロチは命がけでクシナダヒメを守ったんだ。スサノオの水連(...

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ずっと君を待っていた・29

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・・・きっとぼくは、何も応えられない自分の、不器用なキスが恥ずかしかっただけなんだと思う。・・・だって、正直言っちゃうと初めてだったし。・・・そんな、イヤじゃなかったし。どうしよう・・・これって、まじ、やばくね?きっと今のぼくは、夜市で売られている鉢植えのホオズキみたいに、真っ赤だ。その夜遅く、とうとう本家での神楽の支度が始まった。篝火に火が入り夜目に金色の火の粉が舞う。青ちゃんは、ぼくと視線を合...

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