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Category: 杏樹と蘇芳(平安)  1/1

杏樹と蘇芳(平安) 1

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平安のころの話である。広間に引き据えられたまだ幼さの残る兄弟は、人買いにさらわれてここに連れて来られた。傍で丸くうずくまって震える幼い弟を、半身で庇う麗しい兄は年のころはまだ13,4の少年であった。「年は?」人買いの質問に、きりりとまなじりを上げ兄が答えた。「14歳。これなる弟は、8歳でございます」「元服は?」「筑紫(九州)に流された父の元に参り、そこで仮元服の仕儀となるはずでございました」「元服...

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杏樹と蘇芳(平安) 2

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平安のころの話である。杏樹と蘇芳の父は、幼い頃から年の近い帝に寵愛されていた。だが仕えていた帝が崩御し、政権の中枢にいた父は、政敵の謀略にかかりその地位を追われることになった。帝の死を悼(いた)む間もなく、わずかな供だけを連れ、傷心の父は都を落ちてゆく。父の乗る馬を追って杏樹はひた走り、必死で声を掛けた。「父上――――ッ!父上――――っ!」馬の背からふと振り返った父の目は、幼い兄弟と妻を思う切なさに潤んで...

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杏樹と蘇芳(平安) 3

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平安のころの話である。三人の旅の理由を聞き、船頭はいたく同情した。徒歩で陸路をはるばる行くよりも、船で海路を行った方がはるかに早く筑紫へ着くでしょうと親身に勧めてくれた。優しい言葉を鵜呑みにして、世間知らずの一行が小舟に乗り込もうとしたところ、もう一人の船頭が母はこちらへ乗るのだよと言う。「さあさあ。若い者はそちらに、母御はこちらにお乗りなさいまし」船が傾くからと言われ、そうしたものの小舟は川の支...

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杏樹と蘇芳(平安) 4

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平安のころの話である。「ならば、麗しい兄上の本気を見せて貰おうかな。次郎!弟の方を連れてゆき、飯を食わせてやれ。」引き離されると知り、弟は抗った。「蘇芳は兄上とご一緒でなければ、いやです」「心配せずとも大丈夫だよ、蘇芳。兄さまは山椒大夫さまと少しお話をするだけだから」「嘘です。あやつらは、兄上に酷いことをするつもりなんだ。兄上……」青ざめた杏樹の袖を引き、蘇芳は傍を離れなかった。杏樹はゆっくりと、蘇...

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杏樹と蘇芳(平安) 5

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平安のころの話である。その夜、約束通り寝所に現れた杏樹に、次郎は思わず眉を曇らせた。まさか、本当に自分から寝所へと足を運ぶ事はあるまいと思っていた。何も知らない無垢な美童を哀れに思い、そのまま来ずとも見逃してやろうと思っていた。これまで人買い、山椒大夫の元に連れてこられたものは、最初は殊勝でもすぐに自分の事だけを考える。次郎が抱いたものも皆そうであった。媚とへつらいを浮かべ、おもねる仕草で次郎を誘...

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杏樹と蘇芳(平安) 6

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平安のころの話である。兄の消えた部屋の外で、蘇芳はじっと息をひそめていた。知らずにいつか、頬を涙が伝う。ぽたぽたと落ちた水滴は、やがて廊下で小さな溜まりになった。耳を覆っても、聞きたくない声は漏れ聞こえて来る。「ああぁ……っ、あぁ……っ……」板戸の向こうから漏れ聞こえる、兄の引きつるような苦しげな声が、蘇芳の胸を苦しくさせた。「あに……うえ……っ」泣き声が中に聞こえないように、口を覆って蘇芳はその場に突っ伏...

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杏樹と蘇芳(平安) 7

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平安のころの話である。次郎は雄芯から溢れた白い精を、杏樹の差し出した布に吐き出し、大きく一つ息を吐いた。栗の花の匂いが、辺りにどっとたち込めた気がする。「いずれは、これをお前に受け止めてもらう」「は……い」「わしの指に喰らい付いた、そのきつい穴を広げて使う。お前は何も知らないだろうが、女子と違って、男の場合はそこを使う」「はい」「いつかは水飴を舐めるように、わしの物を口淫せよ」「……今宵はお役にたてず...

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杏樹と蘇芳(平安) 8

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平安のころの話である。蘇芳を送った後も、杏樹は非力な弟が心配でならなかった。屋根をふく材料の萱(かや)はそれ自体は軽いものだが、籠いっぱいに入れるとかなりの重さになる。葉の縁で指を切りはしないだろうかと、気をもんだ。「どうした、杏樹。蘇芳が心配か?」杏樹は物言いたげな顔で、問いかけた次郎の方を見やった。「夕刻にならないと、萱刈りは帰ってはこないぞ。荷車に山と積み上げて、牛が曳くほどの荷を作るのだ」...

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杏樹と蘇芳(平安) 9

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平安のころの話である。杏樹の細首を押さえつけると、山椒大夫は胸にどっと腰を下ろし動けなくした。火桶から焼きごてを取り上げると、じっと杏樹を見つめ気は変わらぬかと問いかける。地に転がった杏樹は、緊張しながらも静かに答えた。「変わりませぬ。蘇芳の代わりに、この兄が咎は受けます」「そうか。望みとあらば仕方あるまい」顔色も変えず山椒大夫は、杏樹の額に取り上げた焼きごてを押しつけた。じじ・・・と、肉の焦げる...

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杏樹と蘇芳(平安) 10

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平安のころの話である。山椒大夫は傷痕の残らなかった杏樹を見ても、何も言わなかった。むしろ綺麗な顔に傷を作らずに済んだと、深く安堵していたのは、その場で兄の狼藉を止められなかった次郎の方だ。「良かったのう、杏樹。観音様のおかげで、元の綺麗な顔のままじゃ」「はい、次郎さま。ありがたいことでございます」熱の引いた杏樹は変わらぬ笑みを浮かべ、心配する次郎の胸に身体を預けた。次の日にはもう、塩を汲みに出かけ...

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杏樹と蘇芳(平安) 11

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平安のころの話である。「塩の仲買人が都からお越しじゃ。挨拶せよ」広間に呼ばれて、杏樹はかしこまっていた。悪い予感は当たるものだと、内心密かに思っていた。藻塩の販路拡大の為、次郎は船に乗り遠く越後の方まで出かけていたから、しばらく館には帰らない。山椒大夫があえて遠くへ行かせたと、杏樹は思っていた。絡みつくような、山椒大夫の視線に、どんな思惑があるのか杏樹にはわからなかったけれど、里の住人以外の人間と...

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杏樹と蘇芳(平安) 12

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平安のころの話である。上弦の月の凍える夜。慄く(おののく)杏樹の汗ばむ肌に、商人の舌が這う。執拗に胸を嬲られて、杏樹は身を捩った。「乳房もない場所を、そのようにされても……。くすぐったいだけでございます……」商人は、まだ幼さの残る少年の反応を楽しんでいた。何もない場所を武骨な手が上下するたび、予期せぬ声が漏れるのが自分で嫌だった。何か違う生き物に作り替えられるような気がして、身体の芯が震える。次郎はただ...

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杏樹と蘇芳(平安) 13

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平安のころの話である。月明りの下、杏樹は蘇芳の眠る奴婢の小屋へと入った。皆、きつい労働に泥のように眠り、杏樹の気配には誰も気が付かない。「蘇芳……」汗ばんだ額に、張り付いた髪をそっと払ってやる。何も知らない蘇芳に永の別れを告げ、杏樹は懐から金無垢のご本尊、観音様をそっと取り出すと弟の懐へと忍ばせ願いを口にした。「どうぞ、蘇芳をお守りください。蘇芳がかぶるすべての災厄は、わたしにお与えくださいますよう...

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杏樹と蘇芳(平安) 14

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平安のころの話である。蘇芳がいなくなったのは、八つ時にすぐに明らかとなった。奴婢が逃げ出さぬように、軽い昼餉は共に取ることになっていたからだ。速やかに知らせは屋敷へと走り、浜で塩を汲んでいた杏樹はすぐに引き出され、山椒大夫の厳しい詰問を受けた。「蘇芳の行方が分からなくなった。答えろ、杏樹。お前が逃がしたのだな?」「知りませぬ」杏樹は白い顔を上げ、悪びれることなく、じっと澄んだ目で山椒大夫を見つめて...

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杏樹と蘇芳(平安) 15 【R-18】

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平安のころの話である。杏樹は容赦なく奴婢小屋に押し込められた。内側から、普段使われたことの無いかんぬきがしっかりとかけられるのを、ぼんやりと見つめていた。頭を押さえつけられた布団は、男たちの汗とカビの臭いがする。次郎が杏樹の為に気を使って、髪を洗う灰汁を作ってくれたり、ぬか袋で背中を擦(こす)ってくれたりしたことなどが、杏樹を蹂躙する男たちを惑わせていた。「良い匂いじゃ……」髪は艶やかで椿油の芳しい香...

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杏樹と蘇芳(平安) 16

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平安のころの話である。杏樹が知らずに求めた次郎は、まだ遠く里を見下ろす峠にいた。思いがけず遅くなり、松明を片手に時折山犬の遠吠えを気にしながら、家路を急いでいた。この分だと、夜明けごろには館に着くだろう。杏樹が次郎の名を呼んだ頃、次郎もまた小さく杏樹の名を呼んだ。「もうすぐじゃ、杏樹。よい便りを持って帰るから、待って居れよ」閉ざされた奴婢小屋の中では、それぞれが幾度目かの吐精を見ていた。崩れ落ちた...

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杏樹と蘇芳(平安) 17

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平安のころの話である。館の主、山椒大夫は説明のつかない苛立ちにさいなまれていた。原因は分かっていた。弟、次郎は、何が気にいったのか館に売られてきた杏樹という少年に入れこんでいる。確かに見目良い童子ではあったが、その美童の持っている何かが太夫の気に障るのだった。杏樹と蘇芳という兄弟二人、人買いに騙されて屋敷に連れてこられた時からそうだった。杏樹は迷うことなく身を棄てて弟を守り、自分だけが責めを負うと...

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杏樹と蘇芳(平安) 18

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平安のころの話である。膝をついたままにじり寄ってきた山椒大夫が、杏樹の肩に手を掛けようとした。触れようとして、いくつもの擦過傷に気が付き、固まった手は下ろせなかった。暴行を受け続けた杏樹の柔肌には、あちこちにたくさんの傷が附いていて痛々しかった。「まさか。香月(かつき)のはずがない。そうじゃ、香月ならば背中だけではなく、外から見えぬ内腿にもう一つ痣があったはず……じゃ」呟きを聞いた次郎が、杏樹の着物...

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杏樹と蘇芳(平安) 19 【最終話】

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平安のころの話である。都から遠く離れた、杏樹の囚われている山椒大夫の里を目指していた。杏樹の望み通り元服も済ませ、凛々しい若武者となった蘇芳は、17歳になっている。父との再会も果たし、後は杏樹を取り戻すことだけが蘇芳の悲願だった。胸にある金無垢の観音像に、杏樹は蘇芳の無事を願い、今の蘇芳は杏樹の息災を祈願していた。あの酷い場所で、兄は無事でいるだろうかと、不安の渦巻く道中だった。見る影もない老女と...

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